僕が子供だった頃の音楽の教科書には,バッハは「音楽の父」,ヘンデルは「音楽の母」と書いてあった。音楽の「母」で思い出したが,先日何かの本を読んでいて思わず腹をかかえて笑ってしまったことがある。それは,ある人が最近まで本当にヘンデルが女性だと思い込んでいたというのである。
バッハの顔は,どんな角度から見ても(例えば逆立ちしても)絶対に男と分かるが,確かにヘンデルは,その当時の宮廷音楽家がしていたように髪の毛フサフサのかつらをかぶっているし,何よりも見事なほどのくっきり二重まぶたである。音楽の「母」という表現と相まって,ある人がヘンデルを本当に女性だと勘違いするのも無理はない。その二重まぶたは,例えば仮に,「輝け!第一回世界くっきり二重まぶた選手権」が開催されたとしたら,ヘンデルは間違いなく優勝候補筆頭であろう。その日の体調により奥二重と一重を行ったり来たりの僕としては羨ましい限りである。「じゃ,ヘンデル級のくっきり二重まぶたにしてやろうか。」と言われれば,ち,ちょっと引いてしまう。
随分とヘンデルに失礼なことを言ったが,今日の本題は,ヘンデルの癒しの音楽である。今お気に入りの曲が2つある。1つ目は,歌劇「リナルド」の中の「私を泣かせてください」というアリアである。アルミーナは騎士リナルドを心から愛しているにもかかわらず魔女によって庭園に幽閉され,かえって外国の王アルガンテに迫られ,悲嘆にくれながら切々とこのアリアを歌う。本当に心にしみわたるメロディーだなぁ。2つ目は,ご存じ,歌劇「セルセ」の中のアリア「オンブラ・マイ・フ」だ。主人公である王セルセ(古代ペルシャ)が木陰に憩う情景でこのアリアが歌われる。何でこんなに美しい,癒しのメロディーが湧くのだろうと思ってしまう。この曲は,今ではむしろ弦楽器などの器楽曲に編曲され,「ラルゴ」の名で親しまれている。
そうしてみると,ヘンデルの癒しの音楽は,歌劇の中に多くちりばめられているような気がする。