テレビを見ていたら,NHKがどうやら今年の秋からドラマ「坂の上の雲」を放送するということである。以前からそのような情報には接していたが,いよいよかという感じで非常に待ち遠しい。
一生のうちで何度も何度も読み返したいという本は何冊かあるが,司馬遼太郎の「坂の上の雲」はそのうちの一冊である。文庫本のサイズで8巻ある長編だが,読破するのにさして苦痛などはないどころか,深い取材力に裏付けられた内容に思わず引き込まれてしまう。あぁ,昔はこのように立派で無私の日本人が数多く存在したのだなぁ,と感動を覚える。
この「坂の上の雲」の中で強く印象に残る登場人物を挙げろといわれたら非常に困る。秋山好古,真之の兄弟,児玉源太郎,落命した無数の無名兵士のことに思い至るのはもちろんであるが,全部読破した後でも何かしら心に残る人物の一人として広瀬少佐がある。ロシアバルチック艦隊の旅順港への入港を阻止するための旅順港閉塞作戦というのがあった。広瀬少佐率いる隊の船が撃沈された際,どうしても見当たらない部下の一人を指揮官として最後まで三度にわたって船内(船底まで)捜索し,断腸の思いで諦めてボートに移った直後に敵の砲弾を受けて戦死してしまう。撤退のためのボートは敵の探照灯(サーチライト)で照らされ,今にも砲弾の直撃を受けてしまうような状況で,ボートを漕ぐ部下らは恐怖で引きつっていたであろう。小説によると,そのような中で広瀬少佐は,「みな,おれの顔をみておれ。見ながら漕ぐんだ」と言って部下を懸命に励ましている最中に砲弾の直撃を受けて戦死したという。
極限状況下で,この部下思いの深さや勇気は一体何なのだろう。僕がこの長編を読み終わる最後までこの人物の存在はずっと僕の心をとらえていた。前日のブログで,不安を感じる僕を勇気づけるような,心に響いた言葉を紹介したが,広瀬少佐(その後中佐)のこの勇気も僕の士気を限りなく鼓舞してくれる。
「坂の上の雲」は近々また読んでみたい。でも,司馬遼太郎がこの小説のタイトルを「坂の上の雲」にした理由は僕には未だに分からずじまいである。もう一度読み直したら分かるだろうか・・・。