今日は7月28日。この日は,僕が心から敬愛し,その音楽に心酔しているJ.Sバッハの命日である。文献によると,1750年のこの日の午後7時15分に永眠したとある。今日と同じ火曜日だったそうだ。
「バッハの思い出」(アンナ・マグダレーナ・バッハ,山下肇訳,講談社学術文庫)によると,バッハは,臨終の直前,妻のアンナ・マグダレーナに対し,美しい死の歌をうたって欲しいと希望し,妻は,「もろびとなべて死すべきもの」というコラールを歌って聴かせたということである。「わたくしはちょっとためらいました。もうまもなく天上の音楽を聴く身になろうというこの人に、私たちはこの地上の最後の音楽として、どんな音楽を捧げたらよいのでしょうか。そのとき、神さまがずばりとよい考えを恵んでくださったのです。わたくしは『もろびとなべて死すべきもの』のコラールをうたいだしました。・・・・・・・うたっているうちに、大いなる平和が彼の顔の上にあらわれてきました-彼はもうほとんどこの世のものではなく、いっさいの無常なるものを打ち越えた高みに立っているように思われました。」(284~285頁)
あのバッハが最後に耳にした音楽とは一体どんな音楽なのだろう。早速所蔵のCDの中から探し出し,僕も聴いてみた。本当に目頭が熱くなった。僅か16小節の短いコラールだが,何という美しい曲であろうか。この作品自体もオルガン小曲集のうちの一つとして,バッハ自身が28,9歳のころに作曲したものだ。このコラール歌詞は,「人はみな死ななければならない。すべての肉体は干し草のように枯れゆく。生きとし生けるものは滅びなければならないが,ふたたび新たに生まれ変わる定めにある。」というもの。それにしても感動的な美しさ,安らかさである。
バッハは,自分自身が作った天上的な美しさを有するこの曲とともに安らかにこの世を去ったのである。