僕がNHK教育テレビにチャンネルを合わせるのは「ぜんまいざむらい」の時だけではなく,夜でも何気なくチャンネルを合わせることがある。少し前のある晩,何気なくチャンネルを回していたら,「こだわり人物伝」という番組がやっていた。この「こだわり人物伝」は,毎週火曜日だったかな,午後10時25分から10時50分までの番組のようである。以前にも詩人の「中原中也」が取り上げられた時に偶然に見たことがあった。
その日の晩は,たまたまピアニストのグレン・グールドのことが内容となっていた。グールドの生前の演奏の映像が流れ,思わず見入ってしまった。グールドは50歳の若さで世を去った天才で,僕は学生の頃からグールドの弾くバッハが好きだった。「平均率クラヴィーア曲集第1巻,第2巻」,「パルティータ」,「イタリア協奏曲」などをよく聴いたものだが,グールドが弾くバッハの中では特に「ゴルドベルク変奏曲」が好きである。しかも1955年の若かりし頃の録音ではなく,最晩年の1981年録音の方が好きだ。
「こだわり人物伝」の中で見たゴルトベルグ変奏曲の最後のアリア・ダ・カーポを弾くグールドの姿を見たら,胸にじーんときてしまった。この曲は当然多くのピアニストが手がけているだろうが,グールドの「ゴルトベルク変奏曲」は僕にとっては宝物のような存在である。
また,番組では,グールドが夏目漱石の「草枕」の愛読者であったことが紹介されていた。このことはこのブログでも以前に書いたことがあったが,この番組ではグールドが草枕の一節を朗読する貴重な音声も紹介されていた。彼は「草枕」を何十回も読んでいたそうな。歳をとると人間誰しも多少は内省的になるが,グールドがそれほどまでに愛読した「草枕」に興味をもった。恥ずかしながらまだ読んだことがなかった。今度こそ読んでみようと思う。