とりとめのない話といっても,音楽の話である。
先週のある日は,仕事上,車を運転しながら移動することが多い一日だった。そういう時は,音楽を楽しみながら移動する。よく聴くNHKFMにチューニングしてみると,「にっぽんのうた・世界の歌」という番組がやっていた。最初に流された曲は,亡くなった名優渥美清さんが歌う「ふるさと」であった。感動した。渥美さんの温かみがあり情感のこもった歌声もよかったし,何よりその詩である。
「兎追ひし かの山 小鮒釣りし かの川 夢は今も めぐりて 忘れがたき 故郷」
「如何にいます 父母 恙なしや 友がき 雨に風に つけても 思ひ出づる 故郷」
「志を はたして いつの日にか 帰らん 山は青き 故郷 水は清き 故郷」
何とも,佳い詩ではないか。今もこういう曲を小学生にはきちんと伝えているのだろうか。この詩のイメージが日本人の原風景,また心象風景であり,誠に胸に迫り来る名曲だと思う。
目頭ジーンと感動していたところ,今度は同じ番組で作曲家武満徹さんの歌が数曲紹介された。実は僕は武満徹さんの現代音楽に分類される前衛的な曲は苦手だなという漠然とした意識があったのだが,武満徹さんが作った数多くの歌の中には素晴らしいものがある。この日に車の中で耳にした「小さな空」,「燃える秋」,「翼」などはつくづく佳い曲だなと思った。そういえば,NHKのある番組で評論家の立花隆さんが武満徹さんのことを回想して,感極まって人目をはばからず涙しながら話していたシーンがあったのを思い出した。生前,武満さんと深い親交があったのだろうと思われるが,そんなシーンを見るにつけても武満さんという人は温かい人だったのだろう。武満さんが世を去る直前には,入院先であのバッハのマタイ受難曲を聴いていたという。この人もマタイ受難曲が大好きだったそうだ。
さて,その日の夕刻には,やはりNHKFMのある番組でビートルズ特集をやっていた。遺産分割調停を終えて,四日市から名古屋へ帰る途中で「レット・イット・ビー」という名曲を聴いた。中学生の時に始めてこの曲を聴いた時の感動が蘇った。1970年の曲なのに,ちっとも古いとは感じない。ビートルズ解散直前のポール・マッカートニーの切ないヴォーカルが胸にしみる。
この日は佳い曲ばかりに触れることができた。いやー,音楽って本当にいいですねー。