とうとう待ちに待ったドラマ「坂の上の雲」が始まった。NHKで,2011年の秋にかけて3年がかりの全13話ということらしい。この「坂の上の雲」という小説は,司馬遼太郎原作の巨編であり,これまでの発行部数が1800万部を超えたという。日本の人口を考えると,この発行部数は凄い数であろう。
文春文庫から全8冊(第1巻~第8巻)の文庫版が出ていて,僕も読んだことがある。何とも言えない読後感であった。感動したこともちろんである。明治の人々の気骨と無私の精神,失われてはいけない日本人の特性を認識できたし,今後自分の人生で遭遇するであろう個々の局面でどのように考え,行動すべきかについての規準を示してくれる。少なくともヒントを与えてくれると思う。よく,識者に対するアンケートで「この一冊」というものがあるが,この本を挙げる人も結構いる。
この小説は,秋山好古,真之兄弟,正岡子規の3人を中心に話が展開していくが,これらに限らず,途方もなく魅力的な明治人が次々に登場する。前にもこのブログで,その中の一人として広瀬少佐について言及したが,そのほかにも,児玉源太郎,東郷平八郎,大山巌,小村寿太郎,陸羯南など素晴らしい明治人が目白押しである。これらの人々に加え,黒木為楨,奥保鞏,乃木希典,野津道貫などに恐らく共通するのは,いずれも明治維新前に各藩で藩校などの教育機関,さらにそれより小単位の制度(例えば,薩摩藩における郷中,会津藩における什など)でしっかりとした教育,識見を植え付けられ,これを身につけていたということだろうと思う。
今,民主党政権下で「子供手当て」や「高校無償化」などの金銭等の給付面のみに言及され,実際に施される教育の中身について触れられることが少ない。資源の少ない日本は,人こそが資源であり,教育(科学技術研究も含む。)こそ国家存立の基盤という認識が必要なのではないだろうか。
この「坂の上の雲」を読み,それぞれの場面を想像するにつけても,人こそが資源だなと改めて痛感する。この本は何度も何度も読み返したいし,それに値する一冊である。さて,ドラマの方はというと,正岡子規役の俳優香川照之は,役作りのために体重を30キロ代後半まで減量したという。確かに正岡子規は類い希な才能には恵まれつつも,宿痾のために世を去り,この小説の第3巻目までの登場である。ここまでの役作りをして臨むというのも役者として凄い。ドラマにも大いに期待したい。