このブログでも一,二度紹介したことがあったが,「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(若泉敬著,文藝春秋)という本は,相当に読みごたえがあった。外交,安全保障の在り方について本当に考えさせられたのである。
この本の初出は,平成6年5月であるが,僕が読んだのはこの本の新装版で昨年10月に出版されたものである。この本の内容は,そのサブタイトルに「核密約の真実」とあるように,著者の若泉敬が沖縄返還交渉において佐藤栄作首相の特使として重要な役割を果たした際の,ホットラインでの行き詰まる交渉経過,核密約の内容と存在等についての真相を語ったものである。
さる5月15日は,沖縄が本土復帰を果たして38年目の記念日であった。戦後,沖縄の本土復帰は民族的な悲願であったし,これに臨む佐藤栄作首相は不退転の決意であり,この民族的悲願達成のために沖縄返還交渉では苦悩を重ね,日本の外務省,アメリカの国務省のという正規ルートとは別に,若泉敬という特使を派遣して,時の大統領補佐官ヘンリー・キッシンジャーひいてはニクソン大統領と行き詰まる交渉を重ねていた。有事の際の核持ち込みの密約は,沖縄返還達成のための超法規的なやむを得ぬ措置であった。
それにしても,本来の外交というのは,このようにホットラインで,日本のスタッフ(首相,外相,防衛省,官房長官ら)も一枚岩で,基本的には相手国との信頼関係を維持しながら時には懐疑をはさみながら,タフな交渉をしつつ自国の国益を守っていく尊い作業だということを痛感した。しかもその実効的な手法は,時には特使を介した首脳同士の膝詰め談判という形式であるべきこともある。現在日本においては,民主党政権という得体の知れない存在がうごめいており,岡田外相は核密約の存在を暴いて鬼の首を取ったようにしている。笑止である。そのようなものの存在はとうに公然の秘密となっていた。これを暴くこと自体に何の意味があるのだろうか。暴いた後,これをどうしようというのか。鳩山首相をはじめ,彼らに求められていることは,相手国から交渉の当事者としての適格性を認めてもらうことだ。現在の状況は,相手国(アメリカ)は,誰を交渉相手に,誰を信頼してよいのか皆目分からないという(笑),深刻で信じられない事態になっており,アメリカは心底あきれかえっていると思われる。それもそのはず,米軍海兵隊普天間基地移設問題について,民主党政権発足後は,首相の言っていることと外相の言っていることと防衛相の言っていることとが全く違っていた時期が長かったし,アメリカとしては困惑するしかなかった。当然である。鳩山首相は,韓流スターを公邸に招いて食事したり,首を前後させてハトのまねをしているようなヒマがあるのだったら,この「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」という本でも読んで外交や安全保障の在り方の勉強するとよい(続く)。