またまたくどいようであるが,「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(若泉敬著,文藝春秋)という本の続きである。このお話は今日で終わり(笑)。昨日僕は,著者の若泉敬は無私な愛国者だったのだろうなという正直な感想を述べた。その具体的な理由については,本書を読めばその内容で十分に分かると思う。また,若泉敬は,京都産業大学に招聘されて長年にわたって教鞭をとり,国際政治学者として活躍したのだが,平成4年に同大学を退職した際に支給された退職金全額を,同大学の世界問題研究所に寄付している。一部の官僚が天下りを重ねて「渡り」をし,その退職の都度数千万円もの退職金を手にしているのとは雲泥の差である。また若泉敬は,初出の「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」の発刊に当たり,著作権使用料にあたる額を「沖縄戦で犠牲となられた関係者の方方の鎮魂と,ご遺族のために,ささやかなりともお役に立てたい」と希望し,出版元の文藝春秋は同氏の意志を尊重して,その手続をとったということである。
この本の末尾の「新装版に寄せて」という一文を書いた外交ジャーナリストの手嶋龍一氏の話(同書631頁)やその他の情報によれば,結局,若泉敬は,この本を出した2年後に,毒杯をあおって自裁(自殺)し,この世を去った。この本は自分の死を視野に収めて書き継がれ,彼は,国家機密を公にした結果責任をとって,本書の刊行後に沖縄の鎮魂碑前で命を絶つ覚悟だったようだ。最終的には本書発刊の2年後である平成8年に彼はこの覚悟を現実のものにしたのである。
本書においては,若泉敬は随所に説得力のある文献,文章の引用をしているが,現在の日本及び日本人が置かれている状況,いわば退廃的な状況について,若泉敬もそれを痛感し,僕も胸を打たれた文章があった。正にそのとおりだという文章が・・・。それは論客福田恆存氏の次のような主張,文章である(本書565頁,旧字は訂正してある。)。
「今日、社会党も共産党も安保条約を目の敵にしておりますが、その様子を見ていると、いくら目の敵にしても安保体制はついに叩き割れぬ『硬い胡桃』だと思い込んでいるらしい。が、もしそうなら反安保闘争そのものが無意味だということになります。だが、私には安保体制はそれほど『硬い胡桃』だとは思えません。それが『硬い胡桃』だという前提には、アメリカがアメリカのために日本を軍事的に離さないだろうという独り合点、あるいは思い上りがあるからでしょうが、実際にそうでしょうか。軍事的にアメリカが日本を必要とする度合と日本がアメリカを必要とする度合と、その両者を比較した時、私は後者の方がはるかに大であると思います。もしそうなら、日本が本気で掛かれば安保体制はいずれは解消できましょう。しかも、それに代る軍事同盟が結ばれないとすれば、日本政府にとって最も恐るべき敵はアメリカだということになる。そういうことも考慮に入れながら反安保闘争をやっていただきたいものですが、私の見るかぎりでは、アメリカとの安保体制、あるいは軍事同盟がなくともアメリカは日本に友好的であらざるを得ないという心理が一般に働いているように思われます。戦後25年、アメリカの御厄介になってきたお蔭でしょうが、そうなると反米闘争もアメリカの傘の下で安心して行われているのかと言いたくなります。軍事的、政治的独立よりも、精神的独立の方が急務である所以です」
鳩山首相さん,平和ボケ・思考停止・反日左翼のジャーナリストさん,同じくコメンテーターさん,精神的独立の方が急務なのではないでしょうか(笑)。