もう今から30年も前のことになるだろうか,ある音楽雑誌の中で,音楽評論家の宇野功芳さんの評論を読んだことがある。ブルックナーの交響曲に関する指揮者論だった。この当時の僕は指揮者といえば,ヴィルヘルム・フルトヴェングラーが大好きだった。でも,これは僕の記憶違いでなければであるが,この評論で宇野さんは,ブルックナーの交響曲を振らせたらハンス・クナッパーツブッシュの方がスケールがでかいのではないかというようなことを仰っていたと思う。
「ふーん」と思った僕は,ハンス・クナッパーツブッシュがミュンヘン・フィルハーモニーを指揮した交響曲第8番をレコードで実際に聴いてみた。確かに泰然自若として雄大なスケールの音楽だった。どちらの方がスケールがでかいのかは知らないけど,「なるほどな」と感心した記憶がある。
あれから約30年。僕は「正論」という月刊誌を読んでいるが,その10月号で偶然に宇野功芳さんの「戦争直前の世界地図」というタイトルの論稿を読んだ。素晴らしい内容であった。宇野さんは音楽評論だけでなく,立派な保守の論客でもあるなと思った。自分の祖母が疎開先に帰る途中で,米軍機の低空飛行による機銃掃射で亡くなったこと,戦前の世界地図では白人の植民地だらけだったこと,祖母の慰霊碑の前に立っても今は米軍を憎むよりもむしろ今の日本の現状を憂う気持ちの方が強いことなどに触れられ,元駐日フランス大使を務めた詩人のポール・クローデルの有名な言葉の引用がなされていた。そして宇野さんは,「(クローデルの言葉の引用の後で)日本人は世界でも有数の優れた人種だとぼくも思う。一日も早く誇りを取り戻せ。国を愛し、国旗を愛し、国歌を愛せ。自由主義と勝手主義を混同するな。父親は威厳を保て。一家団欒を大切にせよ。目上の人を敬い、老人をいたわるあの昔の日本が一日も早く復活しますように!」と論稿を結んでいる。宇野さんは健在だった。
それにしても,「正論」にはなかなか良いことが書いてある。特にこの10月号は保存版かもしれない。その内容のほとんどが参考になるし,その一方で「コラム『宮嶋の現場』」のうち,あるカンボジアの女性の思い出に関する記事にはジーンときた。
ポール・クローデルが日本についてどんな言葉を遺していたか,一度彼の名前を入力して検索してみてはどうでしょうか。