「なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか」(若宮健著,祥伝社新書)という本はすごい意欲作だと思う。新書だからせいぜい200ページ強の著作だが,あっという間に読めてしまった。説得力があるのである。ジャーナリストというのは,どんなテーマでも実際に足を運んで精力的な取材をしなければ説得力のある著作を世に出すことはできない。
この意欲作とも評価すべき著作は,パチンコ店での依存性の高い人々の生態,パチンコ業界と警察利権,マスコミがパチンコ業界に頭が上がらない理由などが説得力をもって展開されている。
私も仕事で車を走らせている時,平日朝の開店前にパチンコ店の前に多くの人の行列ができているシーンを見ると,暗澹たる気持ちになる。人の趣味・嗜好なのだから余計なお世話だと言われそうだが,どう考えてもパチンコは賭博なのに,駅前の一等地にパチンコ店がでーんと構え,主婦や若者,老人が昼間から夢中になり,店内にはATMまで設置されているような国がまともな国とは到底思えないのである。
この本の中には,パチンコ店員が実際に見聞きしたことなどについて,概略次のような記述がある。
・「俺さ、パチンコ屋で働いていたのよ。お客さんの中にさ、負けても負けても、毎日通ってくるオバちゃんがいたのね。結構性格のいい人でさあ、たまに勝った時とかジュースくれたりするんだ。でもオバちゃんの持ち物が、だんだん安物になっていくんだわ。それで、今まで五万円とか打っていたのに、だんだん使う金も少なくなっていって・・・・、それでも、ほぼ毎日来てたよ。んで、ある日、『今日はあのオバちゃんこないねえ』って言ってたら、次の日、隣町のパチンコ屋のトイレで首つってたよ。」(元店員のネットでの書き込み,同書85~86頁)
・「手にお守りを握りしめて打っていた年配の女性は、ある日ドル箱を五箱積んでいた。次々と飲み込まれて、穂積さんが、最後の一箱を台の前に上げてやったら、ポロッと涙を流した。」(元店員の体験,同書90頁)
・「筆者も、パチンコ店を取材していつも思うが、ほとんどの客は、暗い表情でパチンコ台に向かっていることだ。嬉しそうな顔をして打っている客は、なぜかいない。玉が出ているときでも、申し合わせたように暗い顔をして打っている。」(同書87頁)
ギャンブル依存症という病気がれっきとして存在し,そのうちのパチンコ依存の占める割合は相当高率だと思われる。それにパチンコマネーの北朝鮮への流出,そしてこれはパチンコ店の存在自体に直ちに結びつけるわけにはいかないものの乳幼児を車内に放置したままのパチンコ遊技,などなど。
2009年の時点で,パチンコ業界の売上高は21兆650億円に上っている。すごい経済規模である。21兆円もの庶民のお金が他のものに使われたとしたら・・。例えば,家族そろっての外食,旅行,コンサート,書籍等購入,教育投資など自己実現のための投資,日用品の購入・・・。すごい経済効果があるし,税収も増えるし,家族の絆もより深まる(続く)。