ブータン国王と王妃は,ご成婚後,ハネムーンともいうべき旅行先にそのたっての願いとして日本を選んでくれました。その立ち居振る舞いの素晴らしさは,私達日本人の心を動かしたのではないでしょうか。宮中晩餐会での乾杯の際,王妃は自分の持つグラスが皇太子殿下のグラスの上にいかないように,腰を少しかがめておられましたし,金閣寺をご覧になった際には,国王は案内役の僧侶が雨に濡れないようにと傘を差し出しておられました。
それにあの感動的な国会での演説。その素晴らしい内容を振り返ってみますに,国王は,「日本人はその歴史と伝統,世界史上で果たした役割など,もっともっと自信をもって欲しい」と訴えかけられたのだと確信しております。そういう内容でしたし,とても社交辞令などとは思えない真心からのメッセージだと受け止めました。国王夫妻の立ち居振る舞いといい,国会演説といい,我々の心に風を送られたような気がいたします。
ブータンは,台湾,インドネシア,パラオ,タイ,トルコ,ポーランド,フィンランド,バルト3国などと並ぶ親日国の一つです。ブータンは,日本が国連安全保障理事会の常任理事国に加入する問題の場面では,いつも日本を強く支援してくれております。ブータンがこのように親日的な理由には様々あるでしょう。ともに仏教国であること,また先ほど述べたように,いわゆる自虐史観とは対極にある史観,つまり長いスパンで世界史を虚心坦懐に見たとき,日本がその世界史上で果たした役割(アジアの解放),戦後の日本のODA(円借款や技術供与等)などがあるでしょう。それとどうしても忘れてはならないのは,西岡京治という素晴らしい日本人のブータンでの活躍です。この西岡さんは,ブータンにおいて悪戦苦闘しながら農業振興に身を捧げ,同国の農業の発展に多大の貢献をした人です。この西岡さんがブータンの農業振興に果たした役割については,動画でもアップされておりますが,泣けてくるほどです。彼は1992年にブータンで急逝しましたが,西岡さんの葬儀はブータン国葬となったのです。
そのブータンは,中国という一党独裁の膨張国家により,その国土の約18パーセントの領土を奪われています。中国の人民解放軍は年数キロ単位で徐々にブータンとの国境(ブータンのガサ県の最北部)を超えて侵蝕し,勝手に掘っ立て小屋をたてたり,西部開発と称して勝手に道路を敷設したりし,2005年にはこれが発覚したのです。ブータン政府としては,中国に対し,1998年に締結した国境策定協定に違反しているとして抗議を行ったのですが,この無軌道な膨張国家に理は通じません。ブータンはその国土の約18パーセント(約8100平方キロメートル)を掠め取られてしまったのです。本当に,強い公憤を覚えます。