前にこのブログで,「墓標なき草原(上・下)」(楊海英著,岩波書店)という本のことをご紹介しました。実は昨年の8月には,その続編として「続・墓標なき草原」(楊海英著,岩波書店)という本も出版されていたのです。岩波書店という出版社は,私のイメージでは中国大好き,中国礼賛ということを昔から「社是」にしているような会社だと思っていました(苦笑)。それにしてはこの出版社が,この「墓標なき草原」という著作を出版したことは本当に意外でした。
あの殺戮の文化大革命がようやく終息したのは1976年。考えてみますと,あの中国という国では今から僅か36年前までこんな戦慄の政治闘争を展開していたのですね。この「続・墓標なき草原」という本のサブタイトルには「内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録」とあるように,この本は内モンゴルにおいて展開された中国共産党による狂気の,そして戦慄の記録です。
もともと毛沢東が発動した文化大革命というのは,政敵である劉少奇らのいわゆる「実権派」を粛清するためでしたが,その後は造反派,紅衛兵,軍などが入り乱れて想像を絶する混乱に陥り,批林批孔運動という方向まで進みました。でも,内モンゴルにおけるそれは,権力闘争というよりも,完全に漢族がほぼ無抵抗のモンゴル人を粛清,つるし上げた民族闘争だったと評価できます。「内モンゴル人民革命党員をえぐり出して粛清する運動」でした。この本の中で明らかにされている殺戮は,本当に,人間という存在はこれほどまでに残酷になれるのかと思わされる筆舌に尽くしがたいものです。粛清された内モンゴルの人々の慟哭が聞こえます。
この本が著された意図,そして著者が述べたかったことを一言で述べれば,この本の内側の表紙カバーの記載を引用するのが最も適切です。
「前著『墓標なき草原』刊行後,著者の元に多くの関係者から新たな証言が寄せられた。いま、内モンゴルでは農耕化・都市化・地下資源開発による環境破壊と強制移住が進み、モンゴル人は『ネーション』ではなく『エスニック・グループ』とみなされ、『自治』ではなく多民族による『共治』が強調されるようになり、モンゴル固有の地名や歴史が漢族に見合ったものに改編されている。文化大革命期における内モンゴルの全モンゴル族を対象とした、今なお真相が明らかにされていないジェノサイドの実態を、被害者の直接証言を通して明らかにする。文化的ジェノサイドは今も続いている。」
チベットでは中国共産党による不当な弾圧に抗議して僧侶らの焼身自殺が相次いでおります。ウイグルにおいても同様の不当な弾圧。内モンゴルにおいてもしかり。もともとチベットもウイグルも内モンゴルも中国の版図ではなかったものです。
まとまりのない文章となりましたが,これらは一読をお勧めしたい本ですし,終章の冒頭にあるモンゴルの詩人の詩には胸を打たれました。