その方は,私がかつて損害保険会社側の交通事故事件処理のお手伝いをしていた際に知り合った方です。Kさんといいます。Kさんは,損保会社の社員をその後退職され,数年前に独立して共同で会社を設立し,損害保険代理店業を始められました。独立して事務所を構えられた際には,観葉植物をお贈りして励ましたことを覚えております。
かつて事件処理の一環として,私はKさんとも何度も打合せ等をさせていただきましたが,真面目で誠実なお人柄です。そうですね,独立開業の報に接してから約3年くらいが経過したでしょうか,ずいぶん久しぶりにKさんからお電話があり,いわゆる弁護士費用特約を使った交通事故の案件を一件ご紹介いただけるという内容のお電話でした。その電話をいただいたのが昨年の12月初旬でした。そして私は,昨年の12月13日に三重県津市内で現地調査や打合せのため,Kさんと本当に久しぶりの再会を果たしたのです。そりゃ,お互い歳を取りましたからそれなりに老けましたが,以前と変わらない和やかな雰囲気で久闊を叙することとなったのです。
私もご紹介いただいた事件処理を着々と進め,年が明けてからもKさんは,真面目に様々な資料をメールで送ってくれたり,お電話でお話もさせていただいておりました。ところが,2月13日だったでしょうか,Kさんと会社を共同経営されている方から,Kさんが2月3日に倒れられたこと,脳梗塞の症状が重篤であること,独立呼吸ができず人工呼吸器を付けていること,意識が戻らないままの状況にあることを初めて聞かされたのです。私は本当に驚き,心配でたまりませんでした。しかし,治療の甲斐なくKさんはその数日後に亡くなられたのです。まだ60代そこそこのお歳だったのではないでしょうか。とても残念で,そして人間の命の儚さと無常を痛感しました。
「死期は序を待たず。死は、前よりしも来らず。かねてより後ろに迫れり。人皆死ある事を知りて、待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る。沖の干潟遙かなれども、磯より潮の満つるが如し。」(徒然草第155段)
死には必ずしも前触れがあるとは限らないのでしょう。死というものは前からお迎えが来るというよりも,実はそっと後ろから迫っているのでしょうね。遙か遠くの沖合の景色ばかりを眺めていたら,実は潮が足元まで及んでいることに気付かずにいたということもあります。真面目で誠実なお人柄だったKさんとは,久しぶりの再会をきっかけとしてこれからも末永くお付き合いをと思っていた矢先の訃報でした。まだまだ鬼籍に入るようなお歳ではないのに,本当に残念なことでした。ご冥福をお祈りいたします。
今から思えば,久しぶりにKさんから昨年12月にお電話があったのは,袖振り合うも多生の縁というように,「今生でもう一度だけ会っておきましょうよ。」と誘ってくれたかのようです。