ドイツの名バリトン歌手であったディートリヒ・フィッシャー=ディースカウさんが5月18日に亡くなられました。もう既に86歳のご高齢だったのですね。ちょっと敬称は略させていただきますが,フィッシャー=ディースカウの歌声は今でも頭に焼き付いております。訃報に接し,さっそくアルヒーフから出ているバッハの「ミサ曲ロ短調」の1961年録音版でフィッシャー=ディースカウの若かりし頃の歌声をしみじみと聴きました(泣)。
私が学生の頃は,シューベルトの歌曲集「冬の旅」を,よくフィッシャー=ディースカウとジェラルド・ムーアのピアノ伴奏という絶妙のコンビの演奏で聴いていました。この歌曲集の中では,私は特に第1曲目の「おやすみ」が好きなのです。夜中に,フィッシャー=ディースカウの「おやすみ」をよく聴いたものですよ。同じ「冬の旅」でも,フィッシャー=ディースカウとダニエル・バレンボイムのピアノ伴奏の版(1979年録音)について,音楽評論家の歌崎和彦さんは,次のように評論しております。
「F=ディースカウの五回目の録音は、余分な感傷を排して、劇的であるとともに、きわめて深くすみきっている。巧緻な表現がさらに一段高く突き抜けた境地を獲得して、最後の『辻音楽師』の問いかけに、無限の余韻と感動を残して去ってゆく。」
同世代のやはり大歌手(ソプラノ)だったエリーザベト・シュヴァルツコップは,フィッシャー=ディースカウのことを「神に近い存在」とまで評価しておりましたし,現役時代はそれこそ傑出した存在だったのでしょうね。
シューベルトの歌曲集「冬の旅」について,フィッシャー=ディースカウとダニエル・バレンボイムのピアノ伴奏の録音版(1979年録音)を私は持っておりませんので,今度なけなしの小遣いをさいて買い求め,しみじみと,そしてじっくりと聴いてみたいと思います。「おやすみ」や「菩提樹」だけでなく,終曲の「辻音楽師」とその余韻も・・・。合掌。