この愛すべき日本の経済はここ14年ほど,ずっとデフレです。物価が継続して低下していく経済現象です。2~3%程度のインフレはどうってことなく,むしろ好ましく,デフレの方が圧倒的に怖いのです。私は日本人の能力を信じていますが,デフレ経済から脱却できていません。これは要するにデフレから脱却する必要性を感じていない勢力が隠然として存在しているからなのではないでしょうか。デフレを脱却できない責任を政府が負っていることは勿論ですが,実はそれと同等かそれ以上に責任を負うべき存在があります。それが日本銀行です。
素人である私でも,特にこのデフレ脱却論について素晴らしい論を展開されているなと常々感心しているのが,学習院大学経済学部教授の岩田規久男さんと,産経新聞編集委員の田村秀男さんでしょう。論旨のわかりやすさと説得力という点で双璧だと思います。
「日本銀行 デフレの番人」(岩田規久男著,日本経済新聞社)という本を最近読んだのですが,誠に素晴らしい。日本の中央銀行である日銀は,「物価の番人」というのは知っていましたが,「デフレの番人」であったとは(笑)・・・・・。もちろんこのタイトルは強烈な皮肉であり,また真実です。
この本の中で日銀の定見のなさ,無責任ぶりを指摘されたほんの一部だけでも引用しておきましょう。
「『デフレでも、デフレ・スパイラルが起きていなければ問題ない』と言い、『いまは、デフレか』と聞かれると、『デフレかどうかは定義の問題だ。03年と04年は消費者物価上昇率がマイナスでも景気はよかった』と言っていたその人が、政府に『デフレ宣言』を出されると、慌てて、『いまはデフレだ』と臆面もなく前言を撤回し、急遽、追加金融緩和策を打ち出す始末である。まるで、節操も、定見もない。」(同著190頁)
デフレは円高の要因です。デフレは企業の収益を押し下げ,ひいては労働者の給与や可処分所得を押し下げ,ますます内的需要が低下します。日本経済が縮小のスパイラルにはまり込んでしまっています。諸外国の中央銀行はもっと責任をもって金融政策を遂行しているのに・・・。日銀関係者はびっくりするほどの高給をはんでいます。2006年当時の日銀総裁の年間報酬は約3600万円,2人の副総裁でもそれぞれ約2800万円,審議委員も約2700万円に達しております。庶民の生活なんか念頭になく,日本経済が沈みっぱなしでも自分たちの報酬は貰える訳です。
この本で岩田規久男教授は,日本のこのデフレ状態から脱却するための処方箋として,①デフレ予想をインフレ予想に転換すること,②日銀がインフレ目標(ターゲティング)にコミットすること(責任を持つということ),③予想インフレ率を2%にするために必要なマネタリーベースを確保すること,④日銀法を改正し,インフレ目標を最終的に決定するのは政府であり,日銀はその目標を達成するための手段を選択し,責任を負うことなどを提唱しています。もっともなことです。大変勉強になります。