いつの間にか蝉の鳴き声もしなくなりました。空を見ると時に鱗のような形状の雲も見られます。朝夕は北側の部屋の窓から涼しい風が入るようになりました。エアコンの世話にならずに眠ることのできる日も増えつつあります。確実に秋の気配を感じますし,この週末の雨の後はますますその感を深くすることでしょう。いよいよ私の季節です(笑)。
突然ですが,バッハの教会カンタータ第78番(イエスよ、汝はわが魂を)という曲を先日偶然に聴く機会があったのですが,叙情性が高く名曲中の名曲と言っても過言ではありません。本当に佳い。特に第2曲目のソプラノとアルトのアリア(デュエット)は素晴らしい曲です。つくづくバッハの凄さを感じます。この第2曲は「われは急ぐ、弱けれど弛みなき足どりもて」という名と歌詞が付いており,一生懸命に,でも軽やかに歩いているかのような人間の軽快な足どり,テンポ,リズムをチェロの通奏低音が支えてくれています。そしてそのメロディーが魅力的なこと・・・。「われは急ぐ、弱けれど弛みなき足どりもて」ですか・・・。私も職業柄いろいろとありますが,この曲を聴いていますと,そのタイトルどおり,何とか気を取り直し,秋空の下で仕事に精を出し,てくてくと歩いている自分の姿を思います。また,そのてくてく着実に歩いているような感じは,教会カンタータ第22番(イエスは御許に十二弟子を招き寄せ)の第5番目の曲(最終)のコラールの曲調にも似ております。
それにしても,この教会カンタータ第78番は名曲中の名曲なのに,そしてその第2曲目のデュエットがこれほど魅力的なのに,なぜ今までこのことに気付かなかったのでしょうか。
小学館のバッハ全集というものが今から18年前の平成7年から約4年間にわたって刊行され(全部で15巻の配本がありました),それはバッハの全作品を網羅した膨大な数のCDと書籍(記事,論文,楽曲解説など)が各巻ごとにセットになっているものですが,薄給だったにもかかわらず私はそれを購入したのです。ところが,第2巻(教会カンタータⅡ)のうちのいくつかのCDに不良箇所があり,音声が途切れ途切れになったり,同じ箇所を繰り返したりする部分があり,ちょうどこの第78番もそういった不良箇所を有するCDに収録され,私は聴かなかったのです。それがこの名曲中の名曲に気付かなかった理由です。直ぐに不良品の交換請求をすればよかったのに,忙しさにかまけて怠り,そうこうする内に時間があまりにも経過し,小心者の私は18年後の今でも交換を言い出せないでいます(笑)。