少し前のこのブログで,私が少年時代からずっと頭に残っていたハリウッドの伝説の名女優グレタ・ガルボのことを書きました。ひょんなことから,この名女優の「ニノチカ」という主演映画を観る機会があったからでした。それにしても美しい女優さんです,ガルボという人は。
そのガルボに関する本が何かないのかネットで調べてみましたら,「グレタ・ガルボ その愛と孤独(上・下)」(アントーニ・グロノヴィッツ著,永井淳訳,草思社)という本を見付けました。今年の読書週間は10月27日から11月9日までだそうですから(笑),早速買って読んでみました。いやあ,なかなか読み応えのある本でしたし,ガルボという女優,そして引退後の一人の人間としての生き方,考え方の一端に触れたような気がしました。
ただ私が読後に思いましたのは,この本の内容のどれくらいが真実なのかということです。この本は全て一人称で書かれていて,あたかもガルボが,その生い立ちから女優になるまで,そしてハリウッドにおいて「ガルボ帝国」と言われるほどの女優としての成功を収めた過程,さらには引退後の謎のヴェールに包まれた人生を独白しているような内容ですが,このアントーニ・グロノヴィッツという作者がなぜそれほどまでに詳細に知り,作品としてまとめ上げることができたのかという点に不思議を感じたのです。これはこの作者がよほどガルボと親密で,しかも長時間にわたってインタビュー等をしなければこれほどの「聞き書き」はできないからです。
内容には,少なくとも家庭という面では不遇な生い立ち,女優になるための足がかりを気付いてくれたムイエことマウリッツ・スティルレルとの関係そして別離,女優としての成功や早すぎるとも言われた引退後の生活などが事細かに記載されており,中にはレズビアン疑惑,あのウィンストン・チャーチルがあごからよだれを垂らしてガルボを壁に押しつけてドレスをはがそうとしたなどといった衝撃的な記述,高名な指揮者であったレオポルト・ストコフスキーの俗物ぶりなどに言及したくだりもあるのですが,本当に本当なのかと思ってしまいます。それに作者であるグロノヴィッツが本書で語っているところによると,1938年の夏にポーランドの音楽家パデレフスキーの山荘でガルボとグロノヴィッツが初めて会ったとされ,その初対面の時に両者が性交渉をもったという表現もありました。その当時ガルボは32歳でハリウッドの伝説的存在だったのですが・・・。
ガルボは生前,グロノヴィッツがこの本を出版することに反対し,ガルボの死後にこの本が出版された後(グロノヴィッツはガルボよりも先に他界)には,出版社とガルボの遺族との間で訴訟沙汰にもなっております。また,実はグロノヴィッツが1980年代初頭に法皇ヨハネ・パウロ二世の生涯を書いたという本は偽物であるとわかって回収された事実もあります。
一方,グロノヴィッツは1972年に自分の小説を出しているのですが,その小説にはガルボの署名入りの前書きが載っておりますから,両者が親密だったことも窺えます。
いずれにしても,この本の内容の真実性がどこまでなのかについては,未だに明らかになっておらず,ガルボの人生と同様,謎のヴェールに包まれたままなのです。ただいずれにしても,読み応えのあった本でした。