もう70歳を超えたそのご婦人からは,なかなか手に入らない銘酒を3度にわたっていただいたことがあります。あまりに申し訳なかったので,バッハの作品のうち有名で一般受けする名曲(「G線上のアリア」とか「主よ人の望みの喜びよ」とか)の詰まったCDをお礼に贈りました。
そうしましたら,そのご婦人からは「本当に良かった。感動しました。愛猫と一緒にうっとりと聴き入ってしまった。」という感想をいただき,さらにその後のある夜の会合ではそのご婦人から「バッハの作品でお薦めの曲を5つくらい教えてくれない?」と頼まれたのです。
もうすっかりバッハのファンになられたようです。そういえば,今から1年ほど前にも60代のあるご婦人から「バッハの曲でお薦めの曲を教えて。」と頼まれたこともありました。私がバッハ狂いであることを知っていたのでしょう。そんなこんなで,私はすっかりバッハ教の伝道師みたいになっております(笑)。今述べたお二人のご婦人も,これまで多くのクラシック音楽を耳にされたこともあったのでしょうが,改めてバッハ作品の魅力に気付かれたのでしょう。
そういう訳で,冒頭にお話ししたその70代のご婦人には,バッハの多くの作品の中から,いろいろ私なりに考えて次の曲を紙に書いてお薦めしたのです。
1 マタイ受難曲
2 ブランデンブルク協奏曲第1番~第6番
3 教会カンタータ第140番「目覚めよと呼ぶ声あり」と第147番「心と口と行いと生活で」
4 2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調とヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調
5 平均律クラヴィーア曲集第1巻と第2巻
私なりにいろいろと考えた選曲です。せっかくバッハの曲を好きになっていただいたので,ますます好きになっていただかなくてはなりませんから・・・。でも,さすがに「マタイ受難曲」については全部聴くと2時間を超えてしまいます。それでもこの曲はバッハの最高傑作だと思いますし,あの世に1曲だけ持って行くことが許されるとしたら,私もバッハ自身と同様,この「マタイ受難曲」を迷わず選ぶくらいの曲です。そこで調べて見ると,カール・リヒター指揮,ミュンヘンバッハ管弦楽団と合唱団の「マタイ受難曲」のハイライト版(ダイジェスト版)が発売されていることが分かりましたので,これを1枚そのご婦人にプレゼントしました。ハイライト版というのは邪道なのかもしれませんが,どうしてもこの曲を外すことはできず,苦肉の策です。
「マタイ受難曲」・・・・・。亡き武満徹さんも,既に自分の死期を悟っておられたのかどうかは分かりませんが,その死の前日にバッハの「マタイ受難曲」を聴いておられたといいます。