3月26日はベートーヴェンの命日です。その最期の時は,春雷の稲妻が光り,雷鳴がとどろいていた夕方だったと伝えられております。私が若い頃からベートーヴェンの生き様に勇気を与えられてきたのは,何よりも40歳前後から音楽家(作曲家)としては致命的とも思える全聾に近い状態になりながら,そして一時は自殺を考えながらも(「ハイリゲンシュタットの遺書」),何とか精神的に困難な状況を克服し,あのような素晴らしい傑作の数々を生み出した精神的な強さゆえです。
ベートーヴェンの作品には好きな曲が多くありますが,特に最近ではピアノソナタのうち後期の作品群に惹かれます。例えば,第30番・・・。叙情的で,枯淡といいますか,諦観といいますか,何とも味わいのある曲です。特に第3楽章などを聴いておりますと,涙が出てくる時もあります。第3楽章は主題と6つの変奏から成っておりますが,その主題の本当に素晴らしいこと,そして第5変奏は後期のピアノソナタによく見られるフーガ形式が取り入れられておりますし,第6変奏ではあの素晴らしい主題が回想的に再現され,静かに曲を閉じます。本当に涙が出るほどの曲なのです。とりわけ,マウリツィオ・ポリーニの演奏が素晴らしい。
また,私はこのブログでも対位法への憧れについて度々触れておりますが(平成21年4月8日,同24年2月6日,同25年6月24日など),ベートーヴェンも,ホモフォニー全盛だった時代にバッハの遺産,対位法(ポリフォニー)を研究し,特に後期には弦楽四重奏曲やピアノソナタなどに対位法,フーガの採用が見られます。
もうすぐベートーヴェンの命日でもあり,「苦悩を突き抜け,歓喜に至った」彼を偲んで,今夜はお酒を飲みながらではありますが(笑),後期のピアノソナタ群を堪能したいと思います。涙なくしては聴けません。