その弁護士の先生は,もう70歳を超え,所属の弁護士会では押しも押されぬ存在で,多くの会員からの尊敬を集めています(M先生といいます。)。私もM先生については,同じロータリー仲間でもありますし,弁護士としても,そして人間としても畏敬の念を抱いております。
そのM先生と私,そしてその他の仲間と一緒にゴルフのラウンドを楽しんでいた時のことです。4番は眼前に大きな池が広がっているショートホール(パー3)です。M先生はボールをティーアップし,2回ほど素振りをくれてから勢いよくティーショットを打ちました。するとボールは,無情にも眼前の池に「ジャボーン!」と意地悪な音を立てて水面下に沈んでいきました。その直後,M先生は「もう,こんな人生いやだ!」とみんなに聞こえる声で呟いたのです(笑)。一同,爆笑です。
しかし,M先生を待ち受けていた人生の試練は,残念ながらそれだけではありませんでした。8番はトリッキーなミドルホール(パー4)です。M先生は苦労されながらもグリーン近くまで寄せられたのですが,グリーン奥の船のような形をした難しいバンカーにボールを入れてしまったのです。M先生に与えられたそこからの修羅場のような試練,それを何とか乗り越えられた顛末については,筆舌に尽くし難く,形容もし難く,また無理にお伝えしようとすると思わず目頭が熱くなってしまうため(笑),割愛します。ただ,そのホールのスコアが「17打」だったということだけを報道しておきます。
確かに,ゴルフで一ラウンド(18ホール)しますと,それはあたかも人生のようですし,これほど自分の思い通りにならないスポーツもないのではないかと思います。本当に憎らしいくらいです(笑)。ドライバーで250ヤードくらい飛ばしてやろうとしたら「ポコッ」と音を立てて50ヤードくらいしか進まず,同伴者から「ナイス,チョット!」と揶揄されたり,第3打を池に入れ,その池の手前で打ち直してもまた池に入ったり,バンカーショットでいわゆる「ホームラン」を打ってOBにし,気落ちしてバンカー内で打ち直したら,今度はグリーンの向こう側のバンカーに入れ,同情したキャディーさんに「バンカー,ならしておきますから。」と言ってもらって息を切らしながら向こう側のバンカーに走って行ったり,第2打が大きく逸れて隣のホールのティーインググラウンド付近までボールが転がり,その隣ホールの4人に見られながら,そしてドキドキしながら元のホールに打ち戻したりなどなど・・・。
これほど自分の思い通りにならない,そして人生の試練が与えられる競技もないのです。思わずM先生のように「もう,こんな人生いやだ!」と呟きたくなるのです。
でもM先生は,その日も淡々とラウンドを続けられ,時には冗談も言い合いながら決して同伴者を不愉快にはしません。私は,M先生のそれまでの人生の辛いページでの出来事も,強い精神力で乗り切って来られたと聞き及んでおります。考えてみますに,池ポチャの直後に「もう,こんな人生いやだ!」という諧謔的な名言を吐かれるということは,何よりも心に余裕があるからではないでしょうか。
あらためてM先生に畏敬の念を抱いたラウンドではありました。