空には張り付いたような鱗雲で,もう秋の空です。とにかく今週は忙しく,ほとんど事務所にはおらず,出張が続いております。明日は東京家裁行きでもあります。そんな訳で,今週のブログの初更新が木曜日となってしまいました。
今日もまずは早朝から津へ行き,その足で一宮へ・・・。カバンも重いし,結局は車で移動することにしました。車中で聴く音楽は何が良いか,かなり迷いましたが,フルートが主人公になるバッハのソナタを選びました。フルートとオブリガード・チェンバロのためのソナタ3曲(BWV.1030~1032)と,フルートと通奏低音のためのソナタ(BWV.1033~1035)3曲が入ったCDを選びました(あの名手ジャン・ピエール・ランパルのフルート,トレヴァー・ピノックのチェンバロ,通奏低音部のチェロはローラン・ピドゥ)。
こういうバッハの名曲と一緒なら,車の運転も余り苦になりません。精神的に癒やされながら移動しております(笑)。ただ・・,ただですよ・・・,実は今挙げた6曲のうち,2曲については真贋論争があるのです。つまり,本当はバッハ(私の言うバッハはJ・S・バッハのことです)が作曲したのかどうかについての真贋論争です。
ここでバッハの名誉のために断っておかなければならないのは,あのバッハ自身が他人の作品を自分の作品だと偽ったのでは絶対ないということです。あの天才,そして「音楽の父」がそんなことをする必要は全くなく,あくまでも後世の人たちが,実際にはバッハの作品かどうか疑わしいのにバッハの作品としてしまったということ,そしてそのことについての論争があるのだということなのです。
具体的には,フルートとオブリガード・チェンバロのためのソナタ変ホ長調BWV.1031とフルートと通奏低音のためのソナタハ長調BWV.1033です。フルートとオブリガード・チェンバロのためのソナタ変ホ長調BWV.1031は,特に第2曲目のシチリアーノの哀愁を帯びた美しい旋律が世界的に有名です。私もこの曲は好きなのですが,やはり素人の私でもちょっとこれはバッハの旋律ではないような気がしています。また,フルートと通奏低音のためのソナタハ長調BWV.1033についても,その曲自体は佳い曲だと思いますが,音楽評論家の佐々木節夫さんが述べるように,この曲は和声的な構成が目立ち,バッハらしい緻密な対位法技法が発揮されてはいません。その意味でやはりバッハの作品とは違うような気がします。
この真贋論争については古い歴史があり,近年ではアメリカの音楽学者ロバート・マーシャルが詳細な研究により,ト短調BWV.1020を除き,全てバッハの真作とする論文を発表・・・。しかしその論文に対しては,スウェーデンの音楽学者ハンス・エプシュタインが反論を試みております。
素人の私には分かりませんが,ただ少なくとも贋作と言われている曲を改めて聴いてみますと,佳い曲であることは間違いないにしても,やはり何となくバッハの旋律ではないような気がしますし,各声部に明確な線として浮かび上がるバッハ的な緻密な対位法技法が見られません。例えば,フルートとオブリガード・チェンバロのためのソナタでしたら,バッハの場合でしたらフルートの旋律と,チェンバロの左右の手が奏でる旋律の三声部が対位法的に浮かび上がって来るのですよ・・・。