年の瀬も押し迫った昨日,あるノンフクション本を読み終え,大変に感動いたしました。「日本、遙かなり」(門田隆将著,PHP研究所)という新刊本です。産経新聞の書評を読んですぐに買い求めたのですが,読んでいて思わず泣けてくる箇所もありました。
「エルトゥールルの『奇跡』と邦人救出の『迷走』」という副題が付けられているように,この本は2部構成になっておりまして,第1部は1890年にあったトルコの艦船エルトゥールル号の遭難に際して,紀伊大島や紀伊半島沿岸の漁民達が必死かつ献身的な救援活動,介護を行い,69名のトルコ人船員の命を取りとめ,日本の軍艦2隻に乗船させて当時のオスマントルコ帝国に送り届けてあげた史実を扱っています。
そして第2部は,イラン・イラク戦争でのテヘラン脱出(1985年),湾岸戦争の「人間の盾」(1990年),イエメン内戦からの脱出(1994年),リビア動乱からの脱出(2011年)という4つの大きな「邦人救出」の問題を扱い,残念ながら日本という国が他の先進主要国とは全く異なり,有事の際には海外で活動している邦人の救出には全く無力で,政府専用機すら投ずることなく,他国の温情に依存せざるを得なかった情けない実情をえぐり出しています。
前後しますが,エルトゥールル号遭難時の日本人の救援活動のことは,今でもトルコ共和国の小学校5年生の教科書に紹介されています。このエルトゥールル号遭難事件の後,日露戦争での日本の勝利(長年トルコはロシアの横暴に悩まされ続けてきました),それらはトルコの人々に日本への尊敬と感謝の気持ちを長く抱かせる大きな契機となりました。間違いなくトルコは親日国のひとつです。
この本を読んでいていくつか泣けてくる箇所があるのですが,イラン・イラク戦争でのテヘラン脱出(1985年)の際,時のトルコ政府は,危険を顧みず,自国民に対するものと同等,いやそれ以上の配慮を日本人に示し,あの危険極まりない状況下でトルコ航空機をテヘランに派遣し,進退窮まった邦人を救出してくれたのです。その時の機長であったオルハン・スヨルジュの勇気と信義,そして彼の名前は現在,下関市にある「オルハン・スヨルジュ記念園」という形で残っています(下関市とイスタンブール市は姉妹都市)。そして何よりも,その時のキャビンアテンダントであったミュゲ・チェレビさんという女性のことが何よりも感動的でした。当時彼女は妊娠中でしたが,あの危険なミッションのことは夫にも告げず(言ってしまうと反対されるから),また会社(トルコ航空)にも妊娠中であることを敢えて告げず,邦人救出の専用機に搭乗したのです。その動機についての彼女の言葉は次のようなものでした。
「あの時、〝日本人を助けるために(戦下の)テヘランに行ってくれるか〟と、上司に聞かれたんです。私は、日本人を助けることができるチャンスだと思いました。私は、どうしても日本人を助けたかったんです。そして、大昔の恩を返したかったんです。日本人を助けにいけることを誇りに思いました。」
泣けてきましたよ。大昔の恩というのは,あのエルトゥールル号遭難事件のことです。
一方,第2部でえぐり出された問題点こそが,残念ながら日本という国が他の先進主要国とは全く異なり,有事の際には海外で活動している邦人の救出には全く無力で,政府専用機すら投ずることなく,他国の温情に依存せざるを得なかった情けない実情です。詳しくはこの本を読んでください(笑)。
前にもこのブログで書いたことがありましたが,私が現在,ノンフクション作家で最も気に入っているのが関岡英之さんと門田隆将さんです。一度読んでみてください。この2人に共通していることが3点ほどあります。第1点目は,日本語が正確で美しく,読みやすいこと。第2点目は,取材力が旺盛で,かつ,その取材内容も確かなこと。第3点目は,何よりも愛国心が感じられることです。
さて,本年も終わりに近づいております。明日からうちのカミさんと娘の3人で(全部で3人ということです。娘は1人しかおりません),長野県の山奥の温泉宿に行って参ります。大晦日と元旦,温泉に浸かりながら,そして読書や雪中散策しながら,骨休めをしたいと思います。
みなさん,今年一年,大変にありがとうございました。多くの読者のためにも(笑),このブログは続けてまいります。来年もどうぞよろしくお願いいたします。みなさん,良いお年を!