最近では,家庭裁判所によっては申立人待合室や相手方待合室でクラシック音楽が流されています。時代も移り変わってきております。20年ほども前ならばそんなこと考えもつかなかったでしょうに・・・。
たまたま私は,ごく最近,ある県の家庭裁判所本庁とある県の家庭裁判所支部に家事事件の仕事で出張したのですが,どちらもクラシック音楽が流されておりました。私もクラシック音楽がとても好きなので,それはそれで好ましいことだとは思いました。でも,これは少し贅沢でわがままな要望かもしれませんが,流す音楽は家庭裁判所の待合室などに向いている音楽を選んで欲しいと思いましたし,音量も少し配慮して欲しいかなと思いました。
というのも,家事事件で家庭裁判所を訪れる人々は,離婚事件や相続問題に関する事件の当事者である方々が多く,夫婦関係の深い苦悩や兄弟姉妹間の骨肉の争いを抱えた人なども割と多いのです。先日も,離婚事件の当事者であると思われる女性は,泣きながら調停室から待合室に戻って来ました。相手方の要求が相当に理不尽だったのか,それとも過去の辛い思いの数々が胸中に去来したためか・・・。ですから,待合室に流す音楽は,どちらかというと心の平静を保つことのできる比較的穏やかな音楽が良いと思います。
ところが,ごく最近訪れたある県の家庭裁判所支部は,モーツァルトのとても陽気で,順風満帆の気分を表しているかのような音楽を割と大きな音量で,これでもかこれでもかと待合室に流しておりました(笑)。しかも私がそれほど好きではないモーツアルトの曲ばっかりです(爆笑)。確かにフルート四重奏曲第1番の第1楽章なんかは良い曲ですよ。でもこれはウキウキした幸せ一杯の曲ではありませんか(笑)。例のアイネ・クライネ・ナハト・ムジークも,そして交響曲第41番「ジュピター」も人口に膾炙した名曲ではあります。でもこれは順風満帆の気分を表しているような曲じゃないですか(笑)。これらが割と大きな音量で連続してこれでもかと流されると,萎えてしまいます。少なくとも家庭裁判所の待合室で流すには不向きだと思います。
ところが,それに引き換え,私がごく最近訪れたある県の家庭裁判所本庁の待合室で流されていた曲の数々は,とても選曲が良かったと思います(笑)。家庭裁判所の待合室には向いております。例えば,ラヴェルの「逝ける王女のためのパヴァーヌ」とか,ショパンのノクターン第20番(嬰ハ短調,遺作)などでした。しかもその音量の適切なこと・・。これならば,深い悩みそして不安を抱えた方々も,心の平静を保ち,少し癒やされるのではないでしょうか。少なくとも耳障りではありません。
なお,最近気づいたのですが,警察署に電話をすると保留中の音楽は決まってベートーヴェンの「エリーゼのために」なのです。刑事事件でこれから被疑者に接見に向かうとき,予め留置管理係に電話をして予約をするのですが,代表電話から係に繋ぐ時の保留の音楽は,決まって「エリーゼのために」です。これは例外なくそうなのではないでしょうか。別に不向きとは申しませんが,警察署という強面の場所にしては少し可愛らしすぎる音楽でしょう。