将棋プロ棋士の加藤一二三九段のことは,私が中学生で将棋を覚え始めた頃から知っていました。「神武以来の天才」と呼ばれ,史上初の中学生(14歳)のプロ棋士になり,18歳でA級八段,20歳で名人戦挑戦をした人です。タイトル獲得数は8期で,タイトルの獲得回数はあの羽生善治三冠(97期),故大山康晴十五世名人(80期),中原誠十六世名人(64期)には遠く及ばないにしても,棋戦優勝も23回で大変立派な実績を残している棋士です。
その加藤一二三九段も,残された対局を終了すれば,近々の引退が決定しています。今朝の産経新聞でも,棋聖戦の予選で77歳の加藤九段が戦って圧勝した棋譜が掲載されていましたが,本当はまだまだ立派な棋譜が残せる棋士だと思います。こういった往年の名棋士の引退は寂しい限りです。
現在,将棋の世界では郷田真隆王将と久保利明九段との間で第66期王将戦7番勝負が繰り広げられておりますが,スポーツニッポンの記事によれば,その郷田王将がインタビューで加藤九段の引退に触れ,「いいお手本です。」と述べて加藤一二三というレジェンドとの思い出を語っています。
その思い出の一つというのは,加藤九段が30数年も年齢の離れた若手時代の郷田王将と対局した時,買って来たあんパンを郷田さんにあげたそうです(笑)。郷田王将はその時のことを次のように語っているのです。
「千日手になって指し直しまでの休憩中、あんパンを買ってきてくださって〝君も食べなさい〟と。2人でいい棋譜を作ろうという意図でしょう。」
それまで互いに相当の持ち時間を使い,叡智を振り絞って戦ってきたにもかかわらず,千日手になりますと,少し休憩をおいた後に再び指し直さなければならなくなり,指し直し局が終了するのは深夜になることもザラです。大変に体力を消耗します。かつて上杉謙信は武田信玄という敵に塩を送ったのですが(新渡戸稲造先生の名著「武士道」にもこのことが記されております。),「敵にあんパンを送る」とは・・・(笑)。何かほのぼのとするエピソードです。