先日,札幌へ出張に行ってまいりました。やはり海の幸は本当に美味しかったのですが,相当に寒く雪がかなり積もっておりました。1泊したのですが,翌日は昼間から雪が降り,帰りの飛行機は本当に飛ぶのだろうかと不安になりました。どうやら北海道の他地域と比べて降雪量がそれほど多くはないという理由で新千歳空港が建設されたようで,空港はそれほど雪は降っておらず無事に名古屋に帰ってくることができました(笑)。
さてそれにしても,12月13日に広島高等裁判所で出された四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止め仮処分決定には驚きました。この決定(保全処分)には,原子力規制委員会など相当の知見を有する専門家,科学者はもちろん,電力会社関係者などは大きな衝撃を受けたようですし,私も大変驚きました。
担当裁判官らは,このような決定をなすに当たり,「火山の影響による危険性について、伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理だ。」と切って捨て,これはあたかも専門家の知見に対するリスペクトを全く欠いているようなものです。
産経新聞の報道によると,四国電力は阿蘇山が大規模に噴火しても,原発が立地する佐多岬半島では現在まで9万年前の阿蘇山の大噴火に由来するとみられる堆積物が発見されていないと主張していたのですが,「佐多岬は火砕流の堆積物が残りがたい地形だから,火砕流が到達していないと判断することはできない。」と論断したのです。もうここまできますと,完全に「ゼロリスク」を要求しているとしか言いようがありませんし,この裁判官らは仮に自分達が四国電力の代理人(弁護士)になった場合,いやそれでもリスクはないのだという反証活動に成功する自信があるのでしょうか。できもしないことを要求するものではありません。要するにこの決定は,数万年に一度規模の噴火を過度に重視し,長時間にわたる検討,検証,調査に基づく科学的知見にのっとった安全審査の結果をごく僅かな審理期間で覆してしまったのです。
規制基準では九州北部一帯を火砕流で埋め尽くすような大噴火の場合,数十年規模のマグマ移動などの兆候があって事前に対応できるとしているのであり,九州電力の社長も,阿蘇山を含む管内5か所の火山口の地殻変動などを常時観測し,安全対策に万全を期していると説明しております。それに,原発稼働の可否を決める新規制基準は,東京電力福島第1原発事故後に火山や竜巻などの自然災害への対策を追加し,立地の半径160キロメートル以内の火山について,火砕流や火山灰の到達の可能性や影響を調べ,安全対策をとるように定めているのです。
今度のこの決定で,伊方原発3号機の停止により火力発電用の燃料費が増加し,四国電力の場合は1か月に約35億円もの収支が悪化する見通しです。原発停止の長期化が電気料金値上げにつながる可能性は大いにあり,賦課金や原油高による値上がりへの追い打ちにもなりかねません。さらに,経済産業省の工業統計調査では,製造業における平成26年の電気使用量が4兆2991億円と,震災前の平成22年に比して3割以上増加して大きな負担となっております。こういったエネルギーコストの上昇は,日本の企業の競争力を削いでしまう結果となるでしょう。
中央大学法科大学院の升田純教授は,「(差し止めは)結論ありきで論理を後付けで探した印象だ。裁判官は行政(規制委)の裁量判断を尊重すべきだし,高度に科学的な問題では耳をかたむけるべきだ。」と指摘しており,同感です。
エネルギー供給手段のベストミックスが叫ばれている昨今,司法に携わる者としても,9万年の間にはここ100年のうちに人類の叡智で原子力発電に変わり得る有力なエネルギー獲得手段が発見されるのではないかといったような中長期的な観点で,ある程度は専門的知見に裏打ちされた行政判断を尊重すべきだろうと思うのです。今回の決定のような問題こそ「司法リスク」なのでしょうね。本案の訴訟手続においては是非真っ当な判断がなされることを願っております。