もうこの歳になりますとね,ふっとしたことで遠い昔のことを思い出すのですよ(笑)。
まだ私が20代の頃,1年間東京で長期の研修を受けていたことがあり,その修了記念誌にアンケートに答える部分があり,「理想の女性は」との問いに「ダニエル・ダリューとドナテッラ・ダミアーニ」などと若気の至りで答えたことがありました。今思えば恥ずかしい限りです。当時はよく名画座で映画を観ていて,登場する女優さんにその都度一目ぼれなどしていたのですよ。
ダニエル・ダリューはご存じフランスの女優で,私は「うたかたの恋」の悲恋の令嬢マリー役の彼女に一目ぼれ(笑)。そして,ドナテッラ・ダミアーニはイタリアの女優ですが,それほど有名ではありません。でも,フェデリコ・フェリーニの「女の都」に出演していたダミアーニはとても魅力的で,これまた一目ぼれ(笑)。そんなこんなで,件のアンケートの頃は私の中ではこの2人が理想だったのでしょうね。理想てったって,お付き合いしたこともないのにね。
フェリーニの映画は本当によく観ました。順不同ですが,「道」,「81/2」,「カビリアの夜」,「カサノバ」,「サテリコン」,「甘い生活」,「そして船は行く」,「女の都」,「アマルコルド」など。「道」は何といってもジュリエッタ・マッシーナという稀代の女優(フェリーニの奥さんになります)の好演で我々を泣かせますが,その他は何やら未知の不思議な世界に誘われるようで,理屈抜きで映画というものを楽しませてくれるのです。これはやはり体験した者でなければ分からない。
今ではいわゆる名画座という存在が少なくなり,フェリーニの映画が無性に観たくなってもかなわず,せいぜいDVDを買ったり,借りたりして自宅のテレビで見るしかないのは残念な限りです。そして,フェリーニの映画で登場する音楽でピッタリはまっているのが,ニーノ・ロータの曲です。ロータには「太陽がいっぱい」や「ゴッドファーザー《愛のテーマ》」などの名曲がありますが,特にフェリーニの映画にはとても良くマッチしているのです。
このニーノ・ロータという作曲家よりも少し若い世代になりますが,エンニオ・モリコーネという作曲家の曲も誠に素晴らしい。私は今も思い出すのですが,平成元年の8月頃でしたか,「ニュー・シネマ・パラダイス」という傑作を観終わって涙が止まらないほど泣かされたことがありました。特に,「愛のテーマ」が流れると,パブロフの条件反射のように泣けてきてしまうのです。この「ニュー・シネマ・パラダイス《愛のテーマ》」という曲,旋律を聴くと自然に涙が流れてくるのです。抗えない。
エンニオ・モリコーネという作曲家もやはり映画音楽の世界では巨匠の一人でしょうね。その秀逸な作品群の素晴らしいこと。そのモリコーネも今月6日に91歳で鬼籍に入りました。ご冥福をお祈りいたします。