完読まで少し時間がかかりましたが,「目に見えぬ侵略-中国のオーストラリア支配計画」(クライブ・ハミルトン著,山岡鉄秀[監訳],奥山真司[訳],飛鳥新社)という本は良書です。これは間違いないでしょう。中国共産党による密かな(時に露骨な)政治工作,世界侵略の一端を垣間見ることができます。
著者は確かな取材を行い,広汎な文献を渉猟し,読者に正確かつ極めて詳細な情報を与えてくれます。1ページが上下2段に分かれておりますので,386ページではあるものの文字数では770ページ相当の分量です。でも,良書です。名著といってもよい。
この本の内容を端的に知るには,冒頭にあるジョン・フィッツジェラルド教授が推薦の言葉として書いた次の文章が分かりやすいと思います。
「中国が他国をどのように影響下におこうとしているのかを知りたければ、まず本書を読むべきである。本書はオーストラリアの未来にとって重要な意味を持っている。オーストラリアにおける中国の影響力行使ネットワークや、その世界的な影響工作のネットワークが解明され始めた」
日本においても,中国共産党によるこれらの工作は多大の成果を挙げておりますよね。例えば,そう,自由民主党の幹事長の存在からしても・・・(笑)。
オーストラリアにおいても,中国人実業家の潤沢な資金力などによって,議員が完全に篭絡されて中国に有利な政治活動を露骨に展開したり,大学などにおいても無数の中国人留学生が納付する学費等に依存しているため,学問の府である大学もその運営等が中国寄りに歪められたり,中国に批判的な教授らが中国人留学生に吊るし上げられたりしています。
2008年の北京オリンピックの際の聖火リレーが長野県に到達した時,中国人留学生らが約4000人も集まり(駐日中国大使館などが動員をかけたとされる。),中国国旗を無数に振りかざし,乱暴狼藉をはたらいて日本国民を震撼させた事件がありましたね。オーストラリアのキャンベラでも同様のことが起こったのであり,この時は中国大使館が組織的に動員し,およそ3万人もの中国人学生が雲霞のごとく集まったそうです。
この本の監訳に当たった山岡鉄秀さんはこの本の末尾に監訳者解説を書いておりますが,次のように述べております。
「一方、小国としての脆弱性を感じながら経済至上主義に走っていたオーストラリアは、『これからは中国と共に生きなくてはならない』と思い込み、『中国の夢』を両手を広げて迎え入れてしまったのである。そんなオーストラリアを中国は西洋最弱と見なし、浸透工作による属国化計画の実験場に選んだ。それにしても、オーストラリアの首相経験者を含む著名な政治家のなんと多くが中国に取り込まれ、その代弁者になったか、ため息をつかざるを得ない。ボブ・ホーク、ポール・キーティング、ジョン・ハワードなど元首相を始め、元外相のボブ・カーに至っては、『北京ボブ』と仇名されたほどだ。」
日本だって本当に大丈夫なんだろうかと私は危機感を覚えます。媚中派の政治家は枚挙に暇がないのだし,アカデミズムの世界でも,中国共産党による人材招致プロジェクト「千人計画」に日本人研究者44名が関与していたことも明らかになっております。
一部の愚かな政治家は未だに習近平の国賓招待の夢を追っております。バイデン政権移行前の1月19日,アメリカのポンペイオ国務長官は声明を発表し,中国政府が新疆ウイグル自治区でウイグル族ら少数民族に対してなしている行為について,いわゆる「ジェノサイド」と認定したというのに・・・。