秋も深まってまいりました。本来ならば絶好の旅行シーズンです。新型コロナウイルス感染のリスクも相当に低下しつつあるとはいっても,まだまだ心から旅行を楽しめる状況とは言い難いようです。
さて,私は常々思っているのですが,ビジネスチャンスとばかりに外国人旅行客を大量に招き入れ,ホテル・旅館・土産物屋さん・飲食店が外国人旅行客が消費してくれるお金に依存していく状況を非常に憂慮しております。コロナ禍が一応の収束状況を迎えた時,再び外国人旅行客が神社仏閣,城郭,その他の景勝地に大量に押し寄せて来てしまう状況はいかがなものかと思ってしまうのです。私などは,静謐を好み,日本的な風情や情緒を旅先でしみじみと味わいたいのですが,敢えて国は特定しませんが(皆さんも薄々お気づきのことと思いますが),マナーが極めて悪く,大声でしゃべくりまくり,喧騒を極めてしまうような外国人旅行客に囲まれたり,遭遇したりすると,せっかくの旅行先で興覚めをしてしまうのです。要するに,インバウンド歓迎の風潮によって,かえって本来旅行を静かに楽しみたい日本人観光客が逃げてしまうのではないかと懸念しています。最近では私も逃げているその一人なのです。
そうしたところ,少し前の産経新聞の「正論」というコラムでジェイソン・モーガン(麗澤大学准教授)さんが素晴らしい主張をされており,私はこれを読んで「我が意を得たり」と思いました。ちょっとその一部をご紹介しましょうか。
「日本文化は、街角に立って自分に注目を集めようとする文化だとは決して言えない。・・・どちらかというと、静けさや陰(かげ)、奥ゆかしさ、繊細さ、儚(はかな)さ、細かい感情に優れている文化だからだ。」
「(谷崎潤一郎の)『陰翳礼讃』を読むと、日本文化はやはり、日本人のためにあるものだと痛感する。・・・基本として日本文化は、日本を棲家にする人々が共有している貴重な『秘密』だと思う。出しゃばり過ぎると、その秘密が台なしになる。陰を光に晒(さら)すと、陰が消えるのは当然だろう。」
「(日本政府は)国内総生産のおよそ2%を占める外国人観光ビジネスをもっと加速したいと発表した。しかし日本文化を商品化するというスタンスは、短期的に利益があるかもしれないが、長期的に考えると日本文化を破壊すると警戒する。『日本文化をばら撒(ま)いて安く売る』のなら、結局のところ、税収アップにはなろうが、日本人のためにはならない。」
「こういう日本文化は、太陽の光で輝くものではなく、『陰翳』を大切にするものだから、政府などがこの文化をもってセールスポイントにすることがあまりにも不適切に感じる。」
「京都に外国人が押しかけ、どんちゃん騒ぎをするよりも、日本人が京都へ行って日本文化の中で充電して日本社会を大切にした方がはるかにいいと思う。」
・・・私はこのような主張を読んで,「何て素晴らしい,正鵠を射た発言だろう。」と感じました。まさに「我が意を得たり」です。本当に良いことを言うなあ(笑)。菅前首相のブレーンとされていて,観光戦略を助言し,訪日客3.8倍増の立役者とされているのがデービッド・アトキンソンという好感を持てない人物ですが,同じ欧米人でも日本文化に対する深度の違いは歴然としております。
私は改めて谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を読み返してみましたが,深い味わいがありますし,「陰翳」を大切にする日本文化の本質というものを再確認しました。いくらインバウンドビジネスと言ったって,神社仏閣,城郭,その他の景勝地に行くのを日本人が避けるようになってはいけないのです。