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弁護士ブログ

2023/03/25

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その昭和の香りのするスナックには,相変わらず私も飲みに行っております。昔ほどの頻度ではありませんが,たまにお邪魔して,気の置けない仲間と一緒に飲んだり,よもやま話に花を咲かせたり,歌ったり,将棋を指したりなどしております(笑)。

 

私もいい年をして不摂生だなとは思うのですが,ちょっと前までは,その昭和の香りのするスナックで随分と楽しんだ後に,時に午前様になりながらもその近くにあるお好み焼き屋さんに入って飲み直したりしたものです。その店は,お好み焼き屋さんではありますが,いつも決まって注文していたのがネギ焼きと焼きそばなんかでした。その店の大将は物静かな人でしたが,割と博学,そして音楽の趣味がとても広そうな人でした。

 

以前私がシルヴィー・バルタンにはまっていて,「アイドルを探せ」という曲ばっかり聴いたり,彼女の20歳ころの可愛く魅力的な動画などを見ていた時,その大将が「バルタンのCDならあるよ。」と言って,その店内で流してくれたこともありました。私が保有していたCDと同じものです。私が仲間と一緒に来店すると,気を利かせて何も言わずにそのCDをかけてくれたこともあったのです。かと思うと,私たちがよもやま話に花を咲かせている間は決して出しゃばらず,BGMで世界三大テノール(ホセ・カレーラス,プラシド・ドミンゴ,ルチアーノ・パヴァロッティ)のDVDをテレビで流してくれたりするのです。この大将は意外に幅広い趣味があるんだなと感心したものです。お好み焼き屋さんでオペラのアリアが聴けるなんて(笑)。

 

でも先日,私が昭和の香りのするそのスナックで飲んでいた時,ママからその大将が今年に入って早々に病気(がん)で亡くなったことを聞かされ,とてもショックを受けました。そのお好み焼き屋さんも今では廃業・・・。

 

その大将もたまにそのスナックで飲んだりもしていたそうです。そういえば,今もはっきりと覚えているのですが,昨年の秋ごろ,その大将がカウンターの端っこで一人で飲んでいた姿を見ました。その時は私は他の仲間と込み入った話などをしておりましたから,お声掛けをすることはできませんでしたが,私がその大将の姿を見たのはその時が最後となってしまいました。

 

そういえば,その秋頃に一人で飲みに来られた時は,すこし顔色が悪く,普段以上に物静かだったような気もします。その時大将の胸に去来するものは何だったのか。味わい深そうなお人柄でしたから,もっといろいろな話をしておけばよかった。本当に寂しい限りです。

 

こういう時は,私はいつも決まって井伏鱒二の漢詩(勧酒)の訳を思い出してしまうのです。

 

「コノサカヅキヲ受ケテクレ ドウゾナミナミツガシテオクレ ハナニアラシノタトヘモアルゾ 『サヨナラ』ダケガ人生ダ」(私の酌を受けて欲しい 今日だけはどうかなみなみ注がせて欲しい 花が咲くと風が吹いたりするものだ 人生に別離というものはつきものだよ)(井伏鱒二訳)

2023/03/18

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いわゆる「徴用工」問題で韓国側が解決案らしきものを提案し,どうやら日本政府もこれを諒とするようです。しかし,いわゆる「従軍慰安婦」の問題を含め,これまでも韓国は政権が変わるごとに何度もゴールを動かしてきた前歴があります。不可逆的ではなく可逆的なのです。私自身はファクトの部分で「徴用工」問題などは存在しないと思っていますし,仮に何がしかの問題があったとしても1965年の日韓請求権協定で全て解決済みであり,本質的には韓国内の問題だと思っております。

 

この問題については,このブログでも数回触れておりますので,もしよろしければ「ブログ内検索」を利用して,「徴用工」とキーワードを入れて検索してみてくださ(笑)。それに,この問題と,対韓輸出規制の緩和や「ホワイト国(優遇対象国)」再指定の問題は全く次元の異なる問題ですからね。そこのところよろしく。

 

それにしても,3月7日の産経新聞の社説(主張)を読んで,思わず膝を叩いて感心しました。正に我が意を得たりといった感じの内容です。タイトルは「『徴用工』の解決策 安易な迎合は禍根を残す」というものです。本日はこれを全文引用させていただき,失礼いたします(笑)。

 

「岸田文雄政権が、いわゆる徴用工訴訟問題について、韓国政府が正式発表した『解決策』を受け入れた。韓国の不当な振る舞いを糊塗(こと)する『解決策』への迎合で、日韓関係の本当の正常化にはつながらない。極めて残念だ。』

 

「『解決策』の柱は韓国最高裁が日本企業に命じた賠償支払いを韓国政府傘下の財団が『肩代わり』することだ。元徴用工関係者に金銭を支払うのは韓国政府の勝手だが、そもそも日本企業には『賠償金』を支払ういわれがない。『国民徴用令』という法律に基づき、賃金を支払っていた。第二次大戦当時、多くの国で行われていた勤労動員にすぎない。さらに、日韓間の賠償問題は昭和40年の日韓請求権協定で『個人補償を含め、完全かつ最終的に解決』している。」

 

「岸田政権は、日本企業は史実と国際法を無視した韓国司法に言いがかりをつけられた被害者で『肩代わり』という表現も見当違いだともっと説明すべきだ。それも十分行わず、韓国側財団が肩代わりする点を評価しているようでは、日本の勤労動員が違法で非人道的だったという印象を広めてしまう。」

 

「にもかかわらず、岸田政権は朝鮮統治をめぐって日本側が『痛切な反省と心からのおわび』に言及した平成10年の日韓共同宣言に触れ、『歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる』と表明した。日本が被害者である『徴用工』問題で、首相や外相がすべき発言ではない。政権が交代したり、何か問題が起きたりするたびに、関係もないのに謝罪の表明を繰り返す前例になることを恐れる。」

 

「岸田首相は、韓国政府の解決策を評価し、『日韓関係を発展させていきたい』と述べた。だが、対等な主権国家の関係を構築できるとは思えない。韓国が史実を歪(ゆが)めて糾弾し、日本が頭を下げる不健全な関係が続きかねない。岸田首相は今後、過去のおわびや反省の文言を読み上げるなどの対応を避けなければならない。」

 

「日韓の経済団体が若者の交流拡大の共同募金をつくる案が持ち上がった。『徴用工』問題と無関係だというが、そうは受け取れない。基金拠出は望ましくない。対日関係改善を追求する尹錫悦政権の姿勢は分かるが、岸田政権が『徴用工』問題で迎合するのは本末転倒である。」(以上,産経新聞,令和5年3月7日付け社説(主張)より)

2023/03/06

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先日,飲み会の集合時間にはまだ時間がありましたので,大きな書店に立ち寄って特にお目当ての本があるというのでもなく,店内をブラブラしておりました。最近はノンフィクション系の本ばかりを読んでおりましたので,たまには小説もいいかと思い,買ってしまったのは田山花袋と谷崎潤一郎の文庫本でした。

 

田山花袋の方は「蒲団」と「重右衛門の最後」の2編が入っており(新潮文庫),谷崎潤一郎の方は「刺青」,「少年」,「秘密」,「幇間」,「悪魔」,「続悪魔」,「神童」,「異端者の悲しみ」という短編が入っているものです(角川文庫)。谷崎の方は学生時代に読んだことがあって何となくまた読みたいなと思って手にし,田山花袋の方は自然主義文学の先駆けの一人ということで,一度読んでみようかと思いました(私の記憶に間違いがなければ,高校時代の現代国語の先生が「蒲団」のことを語っておりました。)。

 

「蒲団」というストーリーは何やら切ないものがありますね。これは花袋本人の実体験が記されている,思い切った独白,そして日本初の「私小説」とも言われております。主人公は33歳前後の既婚の文学者で,3人の子どもがいますが,単調な日常生活に倦み,妻との結婚生活もいわゆる倦怠期を迎えている中で,熱心に乞われたためある女学生を弟子として受け入れます。主人公はその女性の弟子を自分の姉の家に住まわせますが,彼女に恋をしてしまいます。

 

ところが,その後彼女には同年齢くらいの男友達ができ恋仲になっていることが発覚するや,主人公は既婚であるにもかかわらず狂おしいまでに嫉妬します。主人公は,表面上は「先生」,「師匠」としての威厳を保ちつつも,実は男として嫉妬に狂い,その女学生の親御さんを巻き込んで何とか2人の関係を断絶させようとします。

 

その心理描写が何とも切ない。結局その女学生は,親御さんに連れられて田舎へ帰っていくのですが,その後の主人公の喪失感も相当なもの・・・。「性慾と悲哀と絶望とが忽ち時雄(主人公)の胸を襲った。時雄は(弟子である女学生が使っていた)その蒲団を敷き、夜着をかけ、冷たい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。」のです。

 

なんとも切ないですね。ところで,この文庫本の末尾にある福田恆存の解説がまた切ないのです。ご存知,福田恆存といえば文芸評論家,翻訳家,そして保守の論客です。普通は,本の末尾の解説の部分というのは,その作品の価値を評価し,作者をある程度讃える内容のものが多いと思うのですが,意外に冷淡な内容に思えるのです。これが切ない・・・。

 

「おもうに『蒲団』の新奇さにもかかわらず、花袋そのひとは、ほとんど独創性も才能もないひとだったのでしょう。」,「花袋はあくまで芸術作品を創造するひとであるよりは、芸術家の生活を演じたがったひとであります。」,「芸術作品を生むものを、われわれは芸術家と呼ぶのであって、芸術家というものがはじめから存在していて、かれが生んだものを芸術作品と呼ぶのではない。」,「かれはそういう意味において、文学青年の典型でありました。」

 

解説の最後に花袋を評価する部分もありますが,巻末の解説としては内容的には冷淡な感じがします。誠に切ない。

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