ピアノの音は今度は1オクターブ下となり,同じテストが始まった。つまり,ピアノの音に合わせて,アーアーアーアーアーアーアーアーアー(例えばドレミファソファミレド)と歌う。今度は比較的低音域で歌いやすい。しかもこの音域でさきほどのように音程が3度ずつ(おそらく)上昇していったとしても,まあ何とかなるだろう・・・・。と,ところが,今度は音程が徐々に下に移行し始めたのである。え゛ぇーーっ・・そ,そんなぁ-。音域の限界に挑戦させられる自分がそこにいたのである。
この最後のアーアー・・・・の時も(超低音),あごが引け,目は超上目遣いになり,ちょうど餅をのどに詰まらせてもがいているようなすごい形相になっていたに違いない(否,そのように確信している)。は,恥ずかしい・・・。結局,僕はテノール音域でも高音域に難があり,バス音域でも低音域に難があるという現実に直面したのだ。思い起こせば,僕はカラオケに行っても,♯や♭を手前勝手に多用し,いつも歌いやすい状態で歌っていた。安逸をむさぼっていたのである。
少年期で声変わりがする前は,音楽の先生に,「君はいいボーイソプラノをもっているね。」なんて言われた栄光の時代もあったのに・・・。ええい,過去の栄光が何だ。現実を直視しろ。このようにして,僕のオーディションは終了した。採否の結果は後日ハガキで通知されるとのこと。
でもね・・。僕は本当に心からバッハの音楽が大好きで,この音楽家を尊敬し,「マタイ受難曲」もスキでスキでたまらない。結果はともかくとして,この曲歌いたさに老骨にむち打って果敢に挑んだ自分をほめてやりたい気もするのよ。人生の1ページとしてね。
最後に,オーディションをしてくれたこの合唱団は非常にフレンドリーで,皆さん嬉々として練習に参加し,合唱指導も素晴らしく,ドイツ語の歌詞の習得も本格的である。是非この「マタイ受難曲」の演奏を成功させて欲しいと心から願っている。