何という佳い曲であることか!聴いていて思わず楽しくなるし,明るくなるし,一緒に喜びたくなる。マニフィカト,これもバッハの傑作中の傑作であろう。仕事に疲れてぐったりの時でも,寝る前などに聴くと精神的には生き返る。
新約聖書の中のルカによる福音書第1章の中に,天使ガブリエルがマリアに受胎告知する場面の記載がある。そこでマリアは,イエスの母となる栄光を与えられて神に感謝し,「わが魂は主を崇めます・・・・・・」と歌いはじめる。このマニフィカトは,イエスの母となる栄光を与えられたマリアが神に感謝し,賛美するほめ歌のことである。
このマニフィカトの中で特に好きなのは,第1曲と第2曲である。第1曲は,祝祭的な感じのするトランペットの音が印象的で,合唱も非常にイキイキとしているから,聴いている方もワクワクする。第2曲はソプラノのアリアで,抑制的ながらも喜びが表出していて,これもずっと耳に残るメロディーである。この2つの曲は,いずれもニ長調で3拍子という点で共通している。
そういえば,いつだったか,「心が躍る曲」としてバッハのミサ曲ロ短調の中から,「グローリア・イン・エクシェルシス・デオ」と「クム・サンクト・スピリトゥ」の2つを挙げたが,この2つに共通しているのもニ長調で3拍子という点である。そうだとすると,やっぱりニ長調で3拍子というのは高揚した気分を表現するのに最適な組み合わせなのだろう。ヨハン・マッテゾンの調性格論のニ長調の箇所には,「元来鋭く、わがままな調性で騒動や陽気で好戦的なもの、元気を鼓舞するようなものにおそらくもっとも適合するが、・・・」とある。好戦的,わがままというのは若干引いてしまうが,元気を鼓舞する,士気を鼓舞するというのはやはりあるようだ。
梅雨の季節のせいなのか,それとも年齢のせいなのか,ちょっと疲れやすくなっているし,元気のない時もある・・・・・・・・・。でも,バッハは本当にいいなぁ。心にしみる。特に元気を回復させるには,ニ長調と3拍子がよい。