先日の奈良旅行の続きを書いてみたい。実は僕が泊まったホテルは,創業100年を迎えた老舗の奈良ホテルだった。本当に落ち着いた雰囲気で,古都奈良にふさわしい。
これはすごくびっくりしたのだが,奈良ホテルの広間には,相対性理論で著名なあのアインシュタイン博士が弾いたピアノが展示されていた。実際にこのピアノを弾いているアインシュタイン博士の写真とともに。博士は,大正11年(1922年)11月17日から12月29日までの43日間,日本に滞在した。このうちの2日間(12月17日と18日)に奈良ホテルに宿泊したそうだ。フランスのマルセイユ港を出発し,神戸港に到着するまでに約40日も要する長旅。この航海途上でノーベル物理学賞受賞の報せを受け取ったそうだ。
博士は,日本の各地を回り,日本人,日本の文化,日本の自然などに接し,日本の文化と国民性に深く共鳴された。アインシュタイン博士がのこした言葉に次のようなものがある(波田野毅著「世界の偉人たちが贈る日本賛辞の至言33撰」18~24頁,ごま書房)。
「近代日本の発展ほど世界を驚かせたものはない。一系の天皇を戴いていることが,今日の日本をあらしめたのである。私はこのような尊い国が世界に一ヵ所ぐらいなくてはならないと考えていた。世界の未来は進むだけ進み,その間,幾度か争いは繰り返されて,最後の戦いに疲れるときが来る。そのとき人類は,まことの平和を求めて,世界的な盟主をあげなければならない。この世界の盟主なるものは,武力や金力ではなく,あらゆる国の歴史を抜きこえた最も古くてまた尊い家柄でなくてはならぬ。世界の文化はアジアに始まって,アジアに帰る。それには,アジアの高峰,日本に立ち戻らなければならない。我々は神に感謝する。我々に日本という尊い国をつくっておいてくれたことを」
アインシュタイン博士は,日本に旅する前には,「もし私が,日本という国を自分自身の目で見ることのできるこのチャンスを逃したならば,後悔してもしきれないというほかありません。」と述べていたそうだ。前掲の本の中から,さらに調子に乗ってアインシュタイン博士の発言を引用してみる。博士は日本に関して次のような言葉ものこされている。
「日本人のすばらしさは,きちんとした躾や心のやさしさにある。」
「日本人は,これまで知り合ったどの国の人よりも,うわべだけでなく,すべての物事に対して物静かで,控えめで,知的で,芸術好きで,思いやりがあってひじょうに感じがよい人たちです」
「この国に特有な感情のやさしさや,ヨーロッパ人よりもずっと優っていると思われる,同情心の強さ」
「日本の風光は美しい。日本の自然を洗っている光はことのほか美しい」
「日本は絵の国,詩の国であり,謙遜の美徳は,滞在中最も感銘をうけ忘れがたいものとなりました。」
「日本人以外にこれほど純粋な人間の心を持つ人はどこにもいない。この国を愛し,尊敬すべきである。」
アインシュタイン博士は,40日を超える日本滞在を終え,12月29日に門司港から「榛名丸」に乗って日本を後にする際,ご夫妻とも,そして見送る人も,ともに涙を流して別れを惜しんだそうである。