私はごく最近まで,ノンフィクション作家の関岡英之さんが亡くなったことを知りませんでした。とても驚いたのと同時に,何か寂しいような,極めて大きな喪失感を覚えました。私は,著述を生業にしている方々の中で,この関岡英之さんと渡辺惣樹さんのお二人はかねてから特に注目し,「ああ,良い仕事をなさっているな。」と敬服しておりました。ジャンル的には関岡さんはノンフィクション作家,渡辺さんは歴史家という分類になるのではないかと思います。
関岡さんは昨年,虚血性心不全にてご自宅で亡くなったとのことですが,全く知りませんでした。彼の著作の内容の素晴らしさは言うまでもありませんが,特に感動し目からウロコが落ちる思いをしたのは,「拒否できない日本-アメリカの日本改造が進んでいる」(文春新書)と「帝国陸軍見果てぬ『防共回廊』-機密公電が明かす、戦前日本のユーラシア戦略」(祥伝社)の二冊です。これらは必読の書です。
まだお若く,もっともっと良い仕事をして欲しいとかねてから思っていたのに,返す返すも残念です。あるサイトの記事によりますと,2011年に奥様をガンで亡くされた後は一人でお子さんを育てられ,完璧を期する仕事のことなどもあって心労が重なったのかもしれません。
私は,小泉内閣が当時さかんに「構造改革」を連呼し,劇場型でしかも俗耳に入りやすいワンフレーズ・ポリティクスで抵抗勢力を徹底的に排除し,「構造改革」と称して郵政民営化を進め,そして会社法を次から次に改正し,弁護士を大量増員するなどの方向付けをしていました。先学菲才の私は,当時,「構造改革」の意味も目的も分からず,かと言って,置いて行かれるのはいけないので必死に改正会社法を勉強しました。
この「構造改革」なるものの背後にあったのがアメリカから一方的に突きつけられる「年次改革要望書」だったのであり,当時の政府はこれに唯々諾々と従っていた訳です(今もですが・・)。そのような背景事情を余すところなく暴いたのが,関岡さんの「拒否できない日本-アメリカの日本改造が進んでいる」(文春新書)という本でした。今,この本を読み返しております。「構造改革」なるものの本質がよくわかります。小泉内閣時代,アメリカが商売をし易くなるように,あたかもそのお先棒を担いでいたのが竹中平蔵という大臣です。関岡さんは慶應義塾大学法学部の出身ですが,仄聞するところによると,彼は生前「竹中平蔵が慶應教授でいる限り,決して慶應の校舎内に足を踏み入れない!」と宣言されていたようです。愛国心が強く,俗っぽい人を嫌悪し,潔癖な人だったのでしょう。
「帝国陸軍見果てぬ『防共回廊』-機密公電が明かす、戦前日本のユーラシア戦略」(祥伝社)という本も,誠に素晴らしい著作です。くどくなりますが,もっともっと素晴らしい仕事をして欲しかった。
心からご冥福をお祈りいたします。合掌。