いやぁ,凄いですわ。こんなに面白い本に遭遇したのは久しぶりでした。腹を抱えて笑ってしまいましたもの。皆さん,悪いことは言いません。是非,「中国の大盗賊・完全版」(高島俊男著,講談社現代新書)という,とてつもなく面白い本を読んでみてください。
私がこの本の存在を知ったのは,産経新聞の書評によってです。それを読んで是非買うぞと思ったのです。その書評の一部を次に引用してみますね。
「漢の高祖劉邦と、明王朝を建国した朱元璋。ともに大帝国を築いた中国皇帝だが、実は盗賊上がりという共通点がある。ほかにも、惜しいところで天下を取り損ねた明末の李自成、清王朝を揺るがした太平天国首領の洪秀全など、中国の歴史では盗賊集団が重要な役割を演じてきた。」
「こうした歴史をよく知ったうえで、伝統的な盗賊の成功例を踏襲したのが『キワメツキ最後の盗賊皇帝』こと毛沢東、とするのが本書の眼目であり、その喝破ぶりは痛烈だ。」
この書評を読んでこの本を買わないような人はいるのでしょうか(笑)。私はすぐに飛びつきました。
この本で一番面白かったのが「第五章 これぞキワメツキ最後の盗賊皇帝-毛沢東」の箇所でした。私があれこれ拙い紹介をしても始まりませんので,著者であり碩学の高島俊男さんの言葉を次に引用します。
「つまり毛沢東の伝記のおもしろさは、共産党が人民を解放したの民衆が立ち上がったのというヨタを聞くのがおもしろいのではさらさらなくて、こいつの前では朱元璋も李自成もケチなコソ泥くらいに見えてくるという大盗賊が、中国をムチャクチャに引っかきまわすという、一般中国人にとっては迷惑千万の歴史がおもしろいのである。」(同書259頁)
でも,確かにこの本は痛快で面白いのですが,マルクスの資本論を一度も読んだことのない毛沢東が,「マルクス=レーニン主義毛沢東思想」を標榜して行った悪行は笑い事では済まされません。「延安整風運動」での粛清,「反右派闘争」での大粛清,虐殺,「大躍進」での飢餓被害者4000~5000万人,「プロレタリア文化大革命」による弾圧,多くの虐殺など枚挙にいとまがないのです。
今も,天安門広場にはこの男の肖像が大きく飾られ,中国人民元の紙幣にも採用されております。結局は,「最後の盗賊皇帝」が建国した国は,現在においてもチベット侵略・弾圧,ウイグル族の弾圧を続け,昨日も実質的には香港政府を通じ,デモ参加者約180名を逮捕させています。由々しきことです。
この本の「あとがき」でも告白されているように,著者の高島俊男さんが本当に書きたかったのは「第五章 これぞキワメツキ最後の盗賊皇帝-毛沢東」のようでしたが,諸般の事情でこれがかなわず,平成元年に出版された「中国の大盗賊」の元版にはこの章は存在しなかったのです。その後,いろいろあって10数年後にようやく「完全版」の出版と相成ったのであります。
この本の累計発行部数は約7万7千部で,30年以上にわたって読み継がれてきた,知る人ぞ知る名著なのです。本当に面白くてためになる本ですよ。