先週のある一日は大変疲れた。その日は仕事上,自分で運転して車で移動することが多く,愛西市で法律相談を終え,安城市で建物明渡しの立会,名古屋市中川区で被疑者接見と続いたのである。
こういう日は,車内で音楽を聴くためにお気に入りのCDを用意して車に乗り込む。この日は少し気合いを入れるため,リヒャルト・ワーグナーの管弦楽曲集のCDをかけた。ワーグナーの管弦楽曲集の定番は,「楽劇ニュルンベルクのマイスタージンガー第1幕への前奏曲」,「歌劇ローエングリン第1幕への前奏曲」,「歌劇タンホイザー序曲」,「楽劇トリスタンとイゾルデ第1幕への前奏曲」,「ジークフリート牧歌」などである。特に,「楽劇ニュルンベルクのマイスタージンガー第1幕への前奏曲」と「歌劇タンホイザー序曲」を聴くと気合いが入る。「楽劇トリスタンとイゾルデ」では「愛の死」が有名であるが,僕は以前から「第1幕への前奏曲」の方が好きだった。その他の曲も,緑豊かで幻想的な中世の世界を彷彿とさせて癒される。ワーグナーの世界は,その重厚な響きと不協和音を含む独特の和声進行が魅力で,しかも士気を鼓舞してくれる面がある。この日に聴いたのは,カール・ベーム指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏のものだった。
本当にワーグナーの素晴らしさを味わうためには,楽劇や歌劇を全曲通して鑑賞すべきなのであろうが,実は全曲を通して鑑賞したことがあるのは,「楽劇ニュルンベルクのマイスタージンガー」だけであり,その他は前奏曲や序曲だけのつまみ食いしかしていない。なかなか時間がないこともあるのだが,取りあえずは,ストーリーが分からなければ話にならないので,お話の中身から勉強してみたい。特に,ニーベルングの指環(ラインの黄金,ワルキューレ,ジークフリート,神々の黄昏)には興味があるので,そのあらすじから勉強してみたいと思っている。
かつて唯一全曲を通して鑑賞したことがある「楽劇ニュルンベルクのマイスタージンガー」の第3幕の終わり近くで,ハンス・ザックスがドイツ芸術,文化,伝統の素晴らしさ,これを今後も守っていくことの必要性を力説するシーンが特に印象に残っている。このあたりのセリフ,表現は後のナチス・ドイツに利用されたと指摘されることもあるが,ワーグナーがこの作品を完成した時点では当然ナチスなる存在はなかった訳で,あくまでもこれはワーグナー自身の言葉による自国の芸術,文化,伝統への礼賛であったのだ。僕が先にあげたシーンが特に印象に残っているのは,わが日本にも同じことが言えると感じたからであろう。