最近,繰り返し繰り返し聴いている曲があります。ショパンの「舟歌」です。私とショパンとの出会いは小学6年生の時で,それ以来ほとんどの曲は聴いてきました。もちろんこの「舟歌」も何度も耳にしたのですが,改めて思います。これも相当の傑作だと・・。
この曲の成立年は1846年だと言われていますから,死の3年前です。ジョルジュ・サンドとは破局を迎えたか,迎えつつあったと思いますし(失意の中),何よりも持病の肺結核で体調は不良だったに違いありません。それでもこのような傑作を生み出すことができるのですから,本当に素晴らしい。
舟歌(バルカローレ)にしては大曲だと思いますし,演奏時間は10分ほどであり,ピアノ技巧的には極めて難度が高いでしょう。短めのゆったりした前奏,そして休止(パウゼ)の後に8分の12拍子の左手で奏される特徴的なリズム(小刻みに打ち寄せる波にゴンドラが揺れる感じ)に乗せて主題が現れます。
右手の和音は男女が越し方行く末を囁き合っているようにも聞こえますし,男性一人が人生の終幕を迎えて様々に思いを巡らし,達観したような心境を表現しているかのようでもあります。
「いろいろあったけど,人生とはこんなものなんだろうなあ。受け入れるしかないのだ。」と自分に言い聞かせるような心境でしょうか。主題は様々に展開を見せ,最後は堂々とした締めくくりです。くどいようですが,ショパン晩年の味わいのある名曲(大曲)だと思います。嬰ヘ長調で作曲されてはおりますが,やはり悲しさ,寂しさも感じられます。それでも曲のダイナミックな展開と堂々たる締めくくり,そして病魔に苛まれつつもこのような傑作を生み出したということで,我々に勇気を与えてくれる曲です。
写真技術というものは凄いですね。ショパンは1849年に亡くなっておりますが,私はショパンの最晩年の写真を見たことがあります。有名な写真で,スーツの上にコートを着て,少し眉間にしわが寄っている神経質そうな表情のものです。「ああ,ショパンってこんな顔をしていたのか。」と不思議な気分にもなりますが,最近ではその他の写真も発見されております。「ショパン」,「写真」とキーワードを入れて検索すれば出てきます。
1848年といえばパリの2月革命が有名ですが,ショパンはパリでの最後の演奏会を開いた後,生きていくためにイギリスへ演奏旅行に出かけます。肺結核を抱えていた訳ですから,体調面では非常に辛かったでしょうね。結局このイギリスへの演奏旅行で決定的に病状が悪化し,翌年10月17日に生涯を閉じることになります。
今宵はショパンの絶筆(最後の作曲)となったと言われている49番目のマズルカ(作品68の4,ヘ短調)を聴いてみたいと思います。やはりお酒を飲みながら。