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弁護士ブログ

2023/07/18

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7月11日,最高裁判所は注目すべき判断を示しましたね。この事案は,戸籍上は男性だが性同一性障害で女性(トランスジェンダー女性)として生活する経済産業省の50代職員が勤務先の庁舎で女性用トイレの利用を制限しないよう求めて訴訟を提起した事案です。

 

このたびの最高裁判決の骨子は,①経済産業省による性同一性障害の職員のトイレ使用制限を是認した人事院判定は違法,②職員に自認とは異なる性別用か,離れたフロアのトイレしか使えない日常的な不利益を甘受させる具体的事情はない,③使用制限は職員の具体的事情を踏まえず同僚らへの配慮を過度に重視しており,著しく妥当性を欠くというものです。

 

おいおい,それならば生物学的には男性だが性自認としては女性だという人は,何らの制限もなく自由に女性トイレを使用してもよいのか,となっちゃいそうですが,そういうことではありません。裁判例には必ず「射程距離」というものがありまして,結論だけを一般化することはできず,あくまでもそのような判断がなされた具体的な理由,証拠によって認定された個別具体的な事情が前提となっているのです。

 

今回の最高裁の判決の中でも触れられていますように,今回の判断は「不特定多数が利用する公共施設などを想定した判断ではない」とされていますし,個別具体的な事情が前提となっております。例えば,この職員は性同一性障害の診断を受け,ただ健康上の理由で戸籍変更に必要な性別適合手術を受けていなかったこと,女性ホルモンの投与を受けていたこと,性衝動に基づく性暴力の可能性は低いとの医師の診断がなされていることなどといった事情があったのです。

 

ただ私は,今回の最高裁の判断内容に賛成できない部分が少なからずあります。例えば,さきほど骨子の3番目として挙げた「同僚らへの配慮を過度に重視しており,著しく妥当性を欠く」と言い切ってよいのかという疑問です。率直に言いますと,顔見知りのトランス女性と職場のトイレを共用することを嫌がる女性職員も,事実として多いのではないでしょうか。また,判決文を読みますと,経産省が今回の使用制限措置(勤務するフロアから2階以上離れたトイレを使用すること)を実施するに当たって開かれた説明会では,当局職員が受けた印象として,(同フロアの女性用トイレを共用することにつき)女性職員が「違和感を抱いていたように見えた」といった供述もあります。

 

要するに実際に声には出さない(出せない)ものの,女性職員が羞恥を覚え,違和感を抱くといった「声なき声」は厳然として存在するのだと思います。そのような本音を声にして言い出すことができない,自分の本音とは相反する周りの漠然とした同調圧力の存在・・・。それなのに,経産省の今回の使用制限措置(勤務するフロアから2階以上離れたトイレを使用すること)が,果たして「同僚らへの配慮を過度に重視しており,著しく妥当性を欠く」ものと言い切ってよいのでしょうか。確かに,勤務するフロアから2階以上離れたトイレを使用することというのは当該職員には一定の不利益,不自由を強いることにはなりますが,職場となる経産省が定めた今回の措置は,女性トイレを使う他の女性職員らに対する配慮と,当該職員(原告,被控訴人,上告人)が自認する性に即した社会生活を送る法的な利益との調和を図る苦肉の策として許容されるべきものだったのではないかと思うのです。少なくとも,職場の措置,そして人事院判定については,「著しく妥当性を欠く」,「違法」とまでは言えないでしょう。

 

「大衆の狂気―ジェンダー 人種 アイデンティティ」(ダグラス・マレー著,山田美明訳,徳間書店)という本は誠に素晴らしいノンフィクション本ですが,是非一読をお勧めします。読んで損はありません。

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