昨年(2023年)は体調を崩していたことや引越しなどがあったりして,私的にはなかなかに大変な年でしたので,セルゲイ・ラフマニノフ生誕150年,没後80年でちょっとしたブームになっていたことにも全く気づきませんでした。私にとってヨハン・ゼバスティアン・バッハの音楽は別格なのですが,実はラフマニノフの音楽はとても好きです。
先日ラジオで音楽を聴きながらマイカーで移動していましたら,NHKFMで偶然にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が流れました。とてもラッキーでした。しかも,それは1929年でしたか,作曲者であるラフマニノフの自演,レオポルド・ストコフスキー指揮,フィラデルフィア管弦楽団の演奏だったのです。もちろんモノーラルですが,ラフマニノフ自身の演奏という極めて貴重な録音でした。
少しゴツゴツとした野太い力強い音ではありますが,その一方で極めてロマンティックで緑豊かな広大な草原を思わせるような雄大な演奏でした。ラフマニノフは作曲家としてだけではなく,素晴らしい技巧を身に着けた当代一流の名ピアニスト(ヴィルトゥオーゾ)だったのですね。
生前のラフマニノフの生の演奏をロンドンで何度も聴いたという音楽評論家野村光一さんのコメントがウィキペディアに掲載されていましたので,少し引用してみます。
「ラフマニノフの音はまことに重厚であって、あのようなごつい音を持っているピアニストを私はかつて聴いたことがありません。重たくて、光沢があって、力強くて、鐘がなるみたいに、燻銀がかかったような音で、それが鳴り響くのです。まったく理想的に男性的な音でした。」
1917年のロシア革命が勃発し,ボリシェビキ共産主義政権が誕生して以降は,ラフマニノフは二度とロシアの地を踏むことはなく,アメリカに居を構えましたが,これ以降は主としてピアニストとしての活動となり,従前のような作曲活動はあまりしなくなりました。その理由を尋ねられたラフマニノフは,「もう何年もライ麦のささやきや白樺のざわめきもきいていない」ことを理由として挙げていたそうです。確かに,交響曲第2番や第3番,そしてピアノ協奏曲第2番や第3番などのとてつもない傑作を聴いていますと,緑豊かな広大な草原を思わせるような,そして何かしら郷愁を覚えるような美しいメロディーがちりばめられています。都会では作曲に対する霊感(インスピレーション)が涌かなかったのかもしれません。
やはりこれまた20世紀を代表する名ピアニスト(ヴィルトゥオーゾ)としてウラディーミル・ホロヴィッツが有名ですが,ラフマニノフとホロヴィッツは30年の年齢差がありますが,アメリカで親交があったということです。我が家には,ホロヴィッツのピアノ,ユージン・オーマンディー指揮,フィラデルフィア管弦楽団演奏のラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のライブ録音CDがあります。これは本当に圧倒的な名演です。
ラフマニノフの曲を聴いていると本当にメロディーメーカーだなと思います。美しい旋律が多いのです。これまで挙げてきた曲だけでなくその他に私が好きなのは,そしてお勧めなのは,「ヴォカリーズ」,「前奏曲ト短調作品23-5」,「パガニーニの主題による狂詩曲第18変奏」です。いずれも人口に膾炙した名曲です。まあ,取り敢えず騙されたと思って,YouTubeででも交響曲第2番第3楽章(ラフマニノフ)を聴いてみてくださいな(笑)。