そのピアニストの奏でる音色は極めて柔らかく,美しく,癒やされます。ほんの少しの間だけでも,実際に聴いてみればそのことを実感できるでしょう。イタリアのマリア・ティーポという女流ピアニストの名はご存じでしょうか。
マリア・ティーポは,1931年の生まれですから誕生日がくればもう81歳です。17歳のとき,ジュネーブ国際ピアノコンクールで1位を獲得し,その後は精力的に演奏活動を展開しました。ただ,1962年以降はそれまでの過密なスケジュールによる活動には終止符を打ち,録音や音楽教師としての活躍が中心ということになります。彼女は「ナポリの女ホロヴィッツ」の異名まで冠せられるように,国際的にも高い評価を得てきました。
私はティーポのCDは2枚組のやつを1つだけ持っております(輸入盤)。やはり少し古い録音ではありますが,1枚目はバッハのゴルトベルク変奏曲の全曲が入ったやつで,2枚目はやはりバッハの半音階的幻想曲とフーガ,イタリア協奏曲,「主よ人の望みの喜びよ」などが入ったやつです。私は,ゴルトベルク変奏曲は,特に第1変奏と第30変奏が好きで,ティーポの第30変奏などを聴いておりますと,涙が出てきますね。曲自体のせいかもしれませんが,佳い演奏です。同じ曲(第30変奏)を聴いていても,グレン・グールドの演奏はマニエリスムの極致といいますか,鋭くて気が抜けないところがありますが,ティーポのそれは,バッハにしてはロマンティック過ぎるかもしれないものの,とても癒やされるのです。こういうゴルトベルク変奏曲があってもいい。
ティーポの演奏については,バッハもさることながら,スカルラッティやクレメンティの曲も大変定評があります。1955年にわずか4時間で録音したスカルラッティの12曲のピアノソナタ集のLPレコードは「ニューズウィーク」誌において「今年最も優れたレコード」と絶賛されました。今度はスカルラッティのソナタ集のCDを手に入れてじっくりと聴いてみたいと思っております。
それと・・・マリア・ティーポの若い頃の美貌。これはなかなかのものですよ。スウェーデン出身のグレタ・ガルボという名女優がおりましたが,ガルボのような完璧かつ少し冷たい感じのする美貌とは違い,それよりも少し穏やかで優しい感じの美貌です。