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2013/01/30

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 数年前にある合唱団に入って,1年間の練習を重ね,バッハの「マタイ受難曲」を唱わせていただいた,あの感動・・・。今も忘れませんし,一生の思い出です。

 

 私のような者と比較しては大変失礼なのですが,指揮者・音楽評論家の宇野功芳さんも若い頃に同じ感動の体験をされていて,そのことがエッセイとして記載されておりました(「文藝別冊 バッハ 古楽器でもモダンでも!-次に聴くCDを選ぶ最新鑑賞ガイド」(河出書房新社,6~7頁)。本日はこのエッセイ(タイトルは「《マタイ受難曲》の神髄」)を全部引用させていただきます。一箇所を除いて,私も全く同感ですし,私自身の体験を呼び覚ませてくれますし,本当に素晴らしい内容です。

 

「バッハといえば《マタイ》。いや、この世のすべての音楽の中でいちばん好きな曲は?と問われたとき、《マタイ受難曲》は最大の候補の一つである。もっとも、筋金入りのバッハ・ファンは《マタイ》よりも《ミサ曲ロ短調》を挙げる。ぼくはこの作品を好まないので、いわゆるバッハ党ではないのかもしれない。初めて《マタイ》の存在を知ったのは高校時代で、同じ合唱部に在籍する同級生が宗教音楽研究会にも入り、《マタイ》を歌った感動を語ったときだ。とくに第一曲でコーラスが二つに分かれ、八部となり、途中で空の一角から天使の歌声が聴こえてくるように、少年合唱が加わり、なんと九部になる。その壮麗、壮大さは歌ってみなければ分からないよ、と言っていた。ぼくはその言葉だけで感動し、その晩は《マタイ》を聴いている夢を見てしまった。高校卒業後、音楽大学の声楽科に進んだ僕は、クラスメート数人と宗教音楽研究会に入会した。ちょうど、その年は《マタイ》をやるというので、週一回の練習に参加した。なにしろ素人集団なので、パート練習など、ときどき噴き出したくなるほどおかしいが、一年間かけて練習する間に、曲の魂がどんどんコーラスに乗り移ってゆく。でも、まだ《マタイ》の真価は分からない。オーケストラ合わせの日がやって来て、第一曲の〈来たれ汝ら娘たち、来たりて共に嘆かん〉が始まったとき、僕は体の震えがとまらなくなったのである。キリストの受難を扱ったこの作品は、最後の晩餐からユダの裏切り、キリストの処刑と復活を歌っているが、第一曲はいきなりキリストの道行きで開始される。十字架を背負ってよろめきながら丘を昇ってゆくイエスとそれを見守る群衆たち。彼らはしきりに〝見なさい、私たちの重い罪を〟という言葉を発する。そして天の一角から少年たちの〝おお、神の子羊よ〟というコラールがひびいてくる。この第一曲のあとにやっとキリストが登場し、ドラマが始まるわけだが、《マタイ受難曲》のすべてを凝縮したような十分ほどの第一曲に、バッハの名作のエッセンスがこめられている。初めて《マタイ》に接する人は、この〈前奏曲〉を繰り返し味わい、曲の神髄を自分のものにすべきであろう。ついに迎えた本番。その感動をどのように表現したら良いのか。演奏が進み、最後の曲に達したとき、とうとう涙が止まらなくなった。ぼくだけではない。ほとんどの団員が泣いていた。終了後の舞台で、「あーあ、マタイも終わってしまった。つまらないなあ」とつぶやいている団員も居た。数日後、舞台を共にした同級生たちが我が家に集まり、メンゲルベルク指揮のLPを初めて聴いたが、そこで再び腰を抜かしてしまった。その話はいずれ又。」

 

 私も全く同感ですし,私自身の体験を呼び覚ませてくれました。本当に素晴らしい内容です。私自身の《マタイ》体験はこのブログでもたびたび,そしてくどいようにご紹介しておりますので,「ブログ内検索」で覗いてやってください(笑)。

 

 宇野功芳さんのエッセイの中でただ一箇所だけ首をかしげてしまったのは,「ミサ曲ロ短調」に言及された箇所です。この作品を「好まない」のですか・・・。「ミサ曲ロ短調」はバッハの作品の中でも畢生の大作だと思いますし,「マタイ受難曲」と双璧だと感じていますが。でも,結局は好き好きですしね(笑)。

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