20世紀を代表する世界的な名指揮者,クラウディオ・アバドが亡くなりました。享年80歳でした。自分が若かりし頃,アバドの指揮による演奏をレコードでよく聴いたものです。本当に寂しい限りです。
あの名門ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のカラヤンの後任には少なからぬ人の名が挙がっていましたが,結局その後任の芸術監督に就任したのがアバドであり,その2代前の常任指揮者(芸術監督)こそ,私が心から尊敬するあのヴィルヘルム・フルトヴェングラーでした。
産経新聞の記事によると,アバドはフルトヴェングラーに心酔し,同世代のダニエル・バレンボイムやズービン・メータとともにその演奏を共に研究したとのこと。そしてアバドは,オーケストラへの接し方についても「独裁者としてオーケストラを締め上げるアルトゥーロ・トスカニーニのやり方は好きになれません。フルトヴェングラーのように,演奏家と一緒になって音楽を作っていくやり方が好きです。」と述べ,対話を重視するアバドのこのような姿勢はオーケストラの団員にも歓迎されたようです。
確かにトスカニーニとフルトヴェングラーとではその個性も,指揮スタイルも,楽曲の解釈も異なっていたようで,例えばベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調「運命」を実際に聴き比べてみても,まずは演奏時間からして相当に違います(笑)。しかしいずれも世界的な巨匠(マエストロ)であることは間違いありません。
「トスカニーニはかつてニューヨークにおける記者会見の席上、ひとりの記者から意地の悪い質問を受けたことがある。『あなたが世界一の指揮者であることを疑うものはないが、そのあなたを除けば、だれが世界一の指揮者と思われますか。』・・とたんにトスカニーニは不機嫌な顔付きになり、『その質問にはどうしても答えなくてはならないのかね』と反問した。そこで記者がしつこく迫ると,ついに彼は大声で叫んで会見場から姿を消した。『フルトヴェングラー!』」(「フルトヴェングラーと巨匠たち」94頁,芸術現代社)
アバドの話に戻りますが,私はマーラーの交響曲については,そのほとんどがアバド指揮によるものを若い頃からグラモフォンのレコードで聴いておりました(シカゴ交響楽団,ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団など)。私の場合は,マーラーはこの人(アバド)だったのです。誠に素晴らしい演奏だったと思います。
心からのご冥福をお祈りいたします。