さて,権力の市場化という現象をアメリカという国に当てはめてみた場合,そのキーワードになるのは,「回転ドア人事」と「ロビー活動」でしょう。
「回転ドア人事」というのは,企業内部の人間を政府部内に送り込んで「本籍」の業界利益を最大化させるような政策決定に関与させ,これがまんまと成功した後に「本籍」の企業や関連企業に好待遇で戻すという人事の形態をいいます。
例えば,1999年,世界最大の投資銀行ゴールドマン・サックスからホワイトハウス入りしたルービン財務長官と後任のサマーズ財務長官はクリントン大統領の背中を押し,グラス・スティーガル法(預金を受け入れる商業銀行が証券業務にのめり込んだことが大恐慌の一因にもなった反省から,銀行業と証券業を分離すること)を廃止する「金融近代化法」に署名させました。投資銀行の役員が政府の政策決定に関与し,これによって巨大な投資銀行のやりたい放題の状況になり,あのリーマンショックへと向かうことになります。
イラク戦争が開始された時はブッシュ政権でしたが,その副大統領はチェイニーでした。そのチェイニーは政権入りする前は軍事サービス会社「ハリバートン」の最高経営責任者として高額の報酬を得ていました。チェイニーが政府部内に入ってからは「ハリバートン」が戦争地域での兵士の食糧提供や戦争で破壊されたイラクの復興事業などで巨額の受注を得ることになりました。
今はオバマ大統領ですが,この大統領は現実にはあまり大した実績を挙げていません。このままオバマ政権はレームダック化していくでしょうが,いわゆる「オバマケア」という国民皆保険制度も何ともひどいことになっております。詳細は,「沈みゆく大国 アメリカ」(堤未果著,集英社新書)をお読みください。これは200ページくらいの新書ですが,大変読みやすく,アメリカにおける権力の市場化の酷さがよく理解できます。
この「オバマケア」で幸福になったのはアメリカ国民ではなく,幸福になり高笑いしたのは(この本では「笑いが止まらない人々」と表現されています),保険会社,製薬会社,ウォール街(金融,超・富裕層)の3者であると喝破されています。この「オバマケア」でも「回転ドア人事」がフル回転です。先にお勧めした本からちょっと引用してみましょうね。
「2001年。全米最大の保険会社ウェルポイント社の社員だったリズ・フォウラーの最初の任務は、ドアをくぐって医療関係法管轄の上院金融委員会にもぐりこみ、メディケア処方薬法改正の設計に関わることだった。同法は二年後に成立し、政府からメディケアの薬価交渉権を奪い、処方薬部分に民間保険会社が入り込む隙間を作ることに成功する。仕事を終えて政府を去ったフォウラーには、ウェルポイント社のロビイング部門副社長の席が与えられた。数年後、前回よりはるかに規模が大きい任務を果たすため、フォウラーは再び回転ドアをくぐると、今度は上院金融委員会の、マックス・ボーカス委員長直属の部下となる。〈オバマケア〉法案の骨子を設計するために。彼女は手始めに、医療・製薬業界にとっての最大の障害である〈単一支払い医療制度(シングルペイヤー)〉案を、法案から丁寧に取り除いた。日本やカナダのようなこの方式を入れたら最後、医療・製薬業界が巨大な利益を得られるビジネスモデルが一気に崩れてしまう。法案骨子が完成すると、フォウラーは次に保健福祉省副長官に栄転し、オバマケアにおける保険会社と加入者側それぞれの利益調整業務を任される。(中略)だがホワイトハウスでのこうした賛辞は、彼女がその後手にした報酬とは比べ物にならないだろう。元の業界へと続く回転ドアを再びくぐったフォウラーを待っていたのは、最大大手製薬会社の一つであるジョンソン&ジョンソン社の政府・政策担当重役の椅子だった。ウェルポイント社の株価が、その後ロケット級に上昇したことは言うまでもない。」(同書151~153頁)
まあ,こんな感じです。あと,「ロビー活動」については言うまでもありませんね。企業は自社の利益の最大化を図るために,元議員の事務所主任,元議会委員会委員,元政府職員などを金に糸目を付けずにロビイストとして多数雇い入れ,絶えず政府や政策決定機関に精力的な働きかけを行っているのです。